07_旅立ち ―再起―

 その後、生き残りが集まっていた宇宙の政治基盤は崩壊し、
 宇宙は混乱の真っ只中に叩き込まれた。

 凄絶を極めた戦争の結果、生き残った人類の大半は死滅し、
 そして、彼の宇宙に存在した大規模な旧文明の遺産も灰塵と化し、跡形もなく消滅した。
 他の宇宙よりも、その文明の後退ぶりはひどく、
 人類は、人類の歴史をその初めからやり直す事になったのだ・・・。

 秩序の崩壊によって、アイギスは処分される事は無く、彼は何処かへと姿を消した。


 尚、ギルティアの封印に関してだが、封印直後の戦争中、
 封印を維持するための超大型ジェネレーターが、
 封印が完全に安定する前に破壊された。
 尚、破壊したのは一人の少女らしいが、詳細は不明である。

 その結果、時間の経過によって封印が解ける可能性が生じた。
 もっとも、それには数百年や数千年どころか、
 万年億年程度の時間経過が必要になるだろう。


 そして幾星霜もの月日が流れ、ギルティアの存在も、
 その後の戦争も、全ては忘却の彼方へと葬られていった・・・。



 ・・・そして・・・



 ―――私は・・・

 微かな意識を、私は私自身に感じた。
 無意識からの開放。それが意味する事。

 ・・・封印が、弱まっている・・・?

 私は、渾身の力を込め、光の鎖を引きちぎってみた。

 眼を開く。
 ・・・現在の場所は記憶にある。私が、かつて目覚めた場所だ。
 これは、崩壊した宇宙の残骸の一つか。

 封印から解き放たれた。その事実は未だに信じられないが、こうして、私の身体は動く。
「・・・エルヴズユンデ!!」
 私は、私の半身の名を呼ぶ。
 それに答え、エルヴズユンデが姿を現す。
 その胸部に乗り込む。既にアクセスも可能だ。エルヴズユンデと私の傷をまずは癒す。

 私が眠っていた時間は、カウントできる長さでないのは理解できる。
 現在の宇宙の状況を確認せねばならない。

 あれから、どう変わったのか。
 私がいなくなっても、無事にやってこれたのか。

「・・・これは・・・。」
 世界は、私が誕生した時よりも繁栄していた。
 やはり私がいる意味は無かったのかと、少し悔しかったが、
 それ以上に、無事であった事が嬉しかった。

 しかし、今私が出て行っても、必要とはされないだろう。

 私の使命は世界の平穏を守る事・・・人々の笑顔を守る事・・・。
 何処でも良いではないか。私の力を必要とする場所は、きっと何処かにあるはずだ。

 守護する宇宙と違って限定的にしかアクセスできないが故に多少力は落ちるが、
 この宇宙群を出て、別の場所へと行ってみようか。

「エルヴズユンデ・・・行きましょう。
 宛ても、確約された未来もありませんが・・・私が必要とされる場所を探しに・・・。」

 エルヴズユンデが、私の声に応えて飛び立った。



果てなど知れぬ、世界の連なり―――

頼れるのはこの爪と、剣―――

そして、私の半身、鋼の拳を振るう巨神―――

宛ての無い旅、たった一人―――

出会いもあれば別れもある―――

私は、『過ち』の世界の守り手にして、無限の地平を翔ぶ者―――

私の名は―――



                  過ちの鍵ギルティア

                 ―――地平の旅人―――



終わり

06_崩壊 ―忘却―

「・・・宇宙群全体への被害、軽微・・・。」
 私は、ボロボロになったエルヴズユンデで、
 宇宙の残骸が散らばる、その中央に佇んでいた。
「どうやら、脱出艇にも被害は無かったようですね、良かった・・・。」
 ・・・一体何故あのような事態が起こったのだろうか。
 一瞬の考えは、突如発生した異変に遮られる。
「目標を確認・・・アクセスブロックレイヤー、形成・・・!」
 ・・・何!?
 境界空間の空間組成に異常!?

 紅の翼が、燃え尽きたように消える。
 それは、この宇宙群のコアとのアクセスが遮断された事を意味する。
 これでは、再生もままならない。

 次の瞬間、私の目の前に現れたのは、細身の機動兵器だった。
「攻撃を、開始する。」
 機動兵器が右手に光学剣を構えた。
 ・・・来る・・・!
「何のッ!」
 剣と剣が斬り結ぶ。
「・・・何者、です・・・!?」
「答える必要は無い・・・。」
「このタイミングで仕掛けてきた・・・まさか、あの世界を崩壊させたのは・・・!!」
「俺だったら・・・どうした?」
 許せない、許さない・・・あの世界の人々はただ平穏に暮らしていただけなのに!!
「排除します!!断じて許すわけにはいきません!!」
「・・・恨むならば、貴様自身を恨め。
 あれは、我が宇宙の軍上層部が貴様を排除するために仕掛けられた兵器だ。」
 何・・・?
「どういう意味です・・・!?」
 私を排除しようとする理由など、存在しない筈だ。
「我が宇宙からの決定を伝える。
 この宇宙群に貴様の存在は不要。よって貴様を封印する。」
 我が宇宙・・・その機動兵器の設計・・・答え自体を出すのは容易だ。
 ・・・しかし、一体何故だ。
「何故、です・・・!?」
「その問いには答えよう。
 貴様の誕生以前に起こった、強大な力を持つ者同士の全面戦争は、
 宇宙群全体、そしてそこに住む人間全てを巻き込む巨大な戦火となり、
 その結果宇宙群は真っ二つになった。」
 記録にある。それがこの宇宙群誕生の理由だった。
「彼の宇宙に住んでいるのは、その巻き込まれた人間の生き残りだ。
 貴様の行動動機がどうあれ、人間は貴様の強大な力に恐怖し、
 貴様の存在を不要と判断した。」
 ・・・成る、程・・・。
「つまり、私の存在は、恐怖を呼ぶ私の力は、この宇宙群には不要だと。」
「・・・その通りだ。事実、恐らく貴様があの世界を救ったせいで、
 じきにあの世界は戦火に包まれるだろう。」
「な・・・何・・・ですって!?」
 訳が分からなかった。私がただあの世界に手を貸しただけで、何故戦争が起こるというのか。
「貴様を救世主と崇めるものと、貴様を倒すために俺を製造し、送り込んだ者と・・・
 ・・・じきに、戦いが起こるだろう。
 それが、貴様の誕生の、そして貴様が力を行使した、結果だ・・・。
 ・・・恨むのならば、自らの存在そのものの悲劇を恨め。
 この世界の人間があまりに愚かだった事を恨め。」
 敵の言動・・・決定が間違っている事を知った上で行動しているのか。
「あなたは、どう考えるのです・・・?」
「俺はただ、俺に与えられた使命を果たすだけだ・・・俺の存在意義を全うするだけだ。」
 自らの使命・・・私と同じような事を言うのか。
 私が戦う理由・・・それが鍵の使命だから。私が生まれた理由だからだ。
 もし、今戦っている敵が、私を倒す事がその使命にして、
 生まれた理由だというのなら・・・今、問答しても始まらない。
「分かりました・・・ならば私を倒してみなさい。その使命、見事果たして見せなさい!!
 ただし、私も私の使命を果たすために全力で参ります・・・!」
 改めて剣を構える。今、私に出来る事は、戦う事、ただそれだけだった。
 ただ、何故なのか、私の眼には、涙が溢れていた・・・。
 鍵の使命・・・私の使命は、こんなものでは、無い筈、だった。
 私は、何故、ここまでこの使命にこだわっているのだろうか・・・自分でも、やはり分からなかった。
「その覚悟、賞賛に値すると判断!」
 敵が、もう一本剣を引き抜く。
 形状が、短剣の『ソードブレイカー』と酷似した実体剣だ。
「・・・一つだけ約束してください。
 今逃がした脱出艇を、この戦いの後に安全な場所まで送り届けて欲しいのです。」
「その約束を了承・・・約束は守ろう。」
 良かった。これで、私が負けても、誰も傷つくことはない・・・。
「それだけが保証されれば、何も思い残すことはありません・・・さぁ、踊りましょう・・・!」
「踊りか・・・俺の趣味ではないが、な・・・!」
 そう呟いた次の瞬間、敵もこちらも同時に突進する。
 敵が二刀流だというのならば・・・。
 エルヴズユンデの左腕の爪の掌からの光条が剣を形成する。
 剣と剣が、光剣と光剣がぶつかる。
「第一兵装、排除!!」
 剣が、叩き折られる。
 ソードブレイカーのような形状は、やはりそれが目的だったのか。
「まだっ!!」
 その剣を蹴り上げて叩き落す。
「ぬうっ!!」
 この距離ならば、プリズナーブラスターを回避する事は不可能なはずだ。
「プリズナーブラスター・・・」
 エルヴズユンデの胸部に光が集まる。
「ブラスターの使用を確認・・・ミラー・オブ・アイギス、発動!!」
「バァァァァァァァァストッ!!!」
 次の瞬間、胸部から、たくさんの光条が、熱量の塊が、敵を貫く・・・筈だった。
 しかし、その筈だった瞬間に、私は信じられないものを見た。
 敵の左腕のシールドから発せられた粒子が、
 こちらのブラスターの熱量を拡散させたのだ。
 更に、拡散された熱量がシールドへと収束していく・・・まさか!
「カウンターブラスター・・・発射!!」
 至近距離から、自らが放ったブラスターの直撃を喰らい、吹っ飛ばされる。
 この敵・・・私を排除することがその使命と言った。
 まさか、私の武装に対応した装備を装備していると言うのか。
 私がこの世界に誕生してから、この短期間でこれだけの兵器を生み出したと言うのか。
 ・・・素晴らしい。悔しいけれども、素晴らしいとしか言いようが無かった。
 しかし、まだ、まだ動ける。まだ戦える。
 爪の掌の光剣の展開を解除し、光学兵装として使用し、乱射する。
「回避行動。」
 容易に回避される事は分かっている。
 しかし・・・それが命取りだ。
 エルヴズユンデで、敵に体当たりを叩き込む。
「が、っ・・・!?」
 よろめいた隙を突き、爪で敵の光剣を破壊する。
「戦闘能力、三十パーセント低下・・・戦闘続行可能。」
 次の瞬間、エルヴズユンデの左腕が、宙を舞っていた。
 激痛。機体と共有されている私の左腕が崩れ、血が噴出する。
 見ると、敵の腕にはブレードが内蔵されている。
 見た目によらず手数が多い。
「まだ、まだ!!」
 ブレードの一本を横殴りにしてへし折る。

 ブラスターでは反撃される。今の状態で、敵に決定打を与えられる武装は・・・。

 ・・・アトネメントプライがある。
 しかし、あれは最低限、世界のコアにアクセスできる状態でなければならない。
 エネルギーの残量を確認する。
 ・・・機体の全エネルギーを集中すれば、一発は撃てるかも知れない。

 知った事ではない。どうせここで敗北すれば、私は・・・。
「アトネメントプライ・・・チャージ!!」
 エルヴズユンデの胸部が展開する。

「コア露出・・・これで決める。」
 敵が、腰から大型のライフルを取り出す。
 まさか、直接こちらのコアを狙うつもりなのか。
「・・・ファイアッ!!」
 放たれた銃弾はコアを貫き、私を機体の外に叩き出した。
 重力による衝撃弾か。全身に激痛が走る。
「ああああああああああああああああああっ!!」
 まだだ、ここで諦めはしない・・・!
「・・・アトネメント・・・プライ・・・!」
 私の声に応えよ、エルヴズユンデ!
「フィニィィィィィィィィィッシュ!!!!」
 エルヴズユンデが、私の声に応え、アトネメントプライを放つ。
「何っ・・・!?」
 敵は咄嗟に回避行動を取ったが、アトネメントプライは敵の半身を吹き飛ばした。
 そして、その直後、エルヴズユンデの眼に宿っていた光が消える。

「使用可能な全武装の消失を確認・・・アクセスブロックレイヤーの維持を優先、本機を一時放棄し、白兵戦を開始する。」 
 敵の機動兵器の胸部から、左腕が機械化された黒髪の男が出てくる。
 ここには空気はない。私は人間ではないので問題はないが・・・では、彼は・・・。
「・・・あなたは、異形なのですか?」
「正確には、『異形だったもの』だ。人類は、異形を兵器に改造した。それが俺だ。」
 男が、光剣を構える。まだ戦うつもりらしい・・・私も、そのつもりだが。
「・・・そう、ですか・・・。」
 私はそれに応じ、剣を構えた。左腕は、先程の戦いの影響で使えそうも無い。
「・・・行きます!!」
 無数の残骸を足場に、飛び石のようにして接近する。
 そして、剣を振り下ろす。
 相手が、それを受け止める。
「せめて、名を、聞かせては頂けませんか・・・?」
「俺に名は無い・・・俺の製造コードネームは『アイギス』・・・呼びたいならそう呼べば良い。」
 次の瞬間、双方が離れる。仕切りなおしか・・・?
「ぬんっ!!」
 アイギスが、機械化した左腕を突き出す。
 その刹那、殴られたような打撃が私を襲った。
「くっ・・・!?」
 どうやら、あの腕で重力の壁を私に叩きつけたらしい。
 しかし、そのおかげで足場への接地が早まった。これならば、先手を打つ事が出来る。
「たああああああああっ!!」
 相手が態勢を整える前に踏み込み、光剣を叩き落す。
「右腕武装ロスト・・・変異モードに移行する。」
 再び金属と金属が衝突する音が響く。
 見ると、右腕がどす黒い刃へと変わっている。
「人格消去とジェネレータの搭載により、異形の欲望、そして能力は完全に制御化に置かれる。」
「成る程・・・人間は異形を『作り変えた』と・・・!」
 切り結んだままでは零距離で左腕の打撃を喰らう、距離を離さなくては。
 アイギスを蹴り飛ばし、態勢を整える。
「・・・それを行えるのが人間だ・・・!」
 敵が右腕の刃を振る。
 ・・・刃先から刃のような衝撃波が飛んだ!?
 咄嗟に剣でそれを叩き落すが、その直後、左腕の拳が放った打撃が直撃する。
「ぐっ・・・!?」
 全く、多芸な事だ。こちらは左腕が使い物にならないので剣一本で戦っているというのに。
 続けざまに衝撃の刃が飛来する。
 衝撃の刃が、私の脇腹を切り裂く。
「う、ぐぅぅ・・・!」
 こちらに飛び道具は・・・!!
 考えてみれば・・・周囲に大量にあるではないか。
「でえええええいっ!!」
 周囲の残骸を、アイギスに向けて蹴りつける。
「破砕・・・!」
 アイギスの左腕の打撃が、それを砕く。
 更に蹴りつける。
「両断・・・!」
 右腕の刃が、それを斬り捨てる。
「しかし、その状態で、これを受け切れますか・・・!!」
 私は、剣を投げつけた。
「何ッ!?」
 剣が、アイギスの右腕に刺さる。
 その一瞬の隙を突いてアイギスに肉薄する。
 剣を再び握りなおし、斬りかかる。
「何のッ!!」
 アイギスが左腕で、剣を掴む。
 どうやら、右腕はまともに使用できる状態ではないようだ。
 これで、条件は五分だ。
「だああああああっ!!」
 アイギスのみぞおちに膝蹴りを叩き込む。
「が、はっ・・・!」
 隙あり・・・これで決める!
「これで・・・終わりです!!」
 剣を振り下ろす。
「これしきの、事で!!」
 アイギスは右腕から血を噴出させながらも、右腕の刃でそれを止めた。
 何という使命に対しての執念。
 素晴らしい、と、私は心の中で賞賛を贈った。
「エグゼキューション・・・!!」
 至近距離で、打撃が直撃する。
「くっ・・・が、はっ・・・!!」
 私が、残骸に叩きつけられ、血を吐く。
 勝負は、決まった。
「・・・見事・・・です・・・。」
 もう、良いか。
「封印プロセス、第一段階。アクセスブロックレイヤー、一時解除。」
 世界とのアクセスが、一瞬だけ復旧する。
 私の左腕が、戦闘時の爪の姿ではなく、人間の手の姿に戻る。
「メインジェネレータとの共鳴を確認。」
 アイギスが、虹色に輝いている四本の短剣を取り出す。
「封印プロセス、第二段階を発動。」
 壁に叩きつけられた私に向け、アイギスが短剣を投げる。
 右足、左足、右腕、左腕。
 激痛と共に、突き刺さった短剣は光の鎖に変わり、私を残骸に縛り付ける。
「・・・忘れていた・・・一つだけ聞いておこう。」
 今更、一体何だろうか?
「何・・・ですか?」
「・・・貴様の名は?」
 成る程、まだ、名乗っていなかった。
「ギルティア・・・ギルティア=ループリング。」
「そうか・・・。」
 アイギスが頷く。
「ギルティア、その名、しっかりと記憶した。名の通り、だったな。」
「・・・ええ。」
 私の名前・・・ギルティア・・・『罪』・・・。
 私の存在そのものが、この宇宙群においての『罪』だったのかもしれない。
「最終プロセスを発動。」
 私の剣を、私の『核』目掛けて突き立てる。これで、封印は完成する。
 胸に刺さる剣。刃の冷たい感触と、激痛。
「・・・願わくば、汝の罪が祓われん事を。」
 !!
「・・・俺らしくも無いか。」
 まったくもってその通りだ。
 なにしろ、それは本来、私の決め台詞なのだから・・・。


 意識が朦朧としてくる。
 別に、私は死ぬ事に恐怖など無いし、それが永劫の封印であっても同じだ。
 しかし・・・もし、許されるなら・・・私は、もっと人々と触れ合いたかった。

 先程の世界で私が助けた少女の笑顔が、私の脳裏をよぎる。
 これが、私が見た唯一の笑顔なのか。
 ・・・もっと、たくさんの人の笑顔を、見ていたかった。

 ・・・そうか。

 それが、私の戦う理由・・・鍵の使命の、本当の意味だったのかもしれない・・・。

 それが分かった途端に、戦闘中抑えていた涙が、止まらなくなって流れ出した。

 ・・・ただ、寂しかった。
 役目を果たせない事が、そして、私の力を、誰の役にも立てられない事が。

 ・・・誰の笑顔の礎にもなれない事が。


 意識が、途切れ途切れになってくる。

 ・・・アイギス・・・彼は、これから・・・どうするのだろうか・・・。
 彼は使命を完遂した・・・その後、彼は・・・一体、何を望むのか・・・。
 願わくば、彼にも未来が残されている事を・・・。
 願わくば、彼の罪が・・・祓われん・・・事・・・を――――



 全封印プロセス、終了。
「・・・封印を、正常に完了。」
 むなしい事だ。人間は、こうやって悲劇を繰り返してきたのだ。
 かつての宇宙を巻き込んだ戦いも、イレギュラーの存在を認めれば戦わずに済んだ。

 俺は少しの間封印を見て、気付く。
 封印をこんな所に置きっぱなしにするのはどう考えても問題がある。
 俺は何か使えるものはないか周囲を見回す。

 崩壊した宇宙の残骸の中に、神殿と思しきものの残骸を確認。
 ・・・これが良いか。

 俺は、その奥にギルティアの封印を設置した。
「任務、完遂。」
 ・・・これで、俺の任務は完遂された。
 このまま、あの宇宙に戻っても、きっと俺は処分されるだろう。
 それで良い。俺に与えられた役目は完了した。もう、俺が稼動する必要は無い。
 ・・・いや。
「・・・まだ任務は完遂されていないな。」
 そうだ、ギルティアとの約束が残っていた。
 脱出艇を、安全な場所まで誘導しなくてはならない。
 俺は、EWZ-999に再び乗り込んだ。
 ・・・通信が入っている。司令官(ハゲ)だ。
「とうとう大規模な反乱が起こった!私は知らん・・・!」
 その直後、司令官(ハゲ)の脳天に風穴が開いた。
 ・・・ああ、やはり、こうなったか。何が起こったのか、推測は出来る。
 自業自得と判断。そのまま通信を切断する。

 さて、これからどうしたものか・・・。

 ・・・まぁ良い。
 俺はとりあえず、脱出艇を安全な宇宙に誘導してから考える事にした・・・。


続く

05_信念 ―激突―

 まさか、あのような兵器を使用するとは・・・。
 ワールドデストロイヤー・・・名前の通りの兵器。
 空間に存在する重力の揺らぎを増幅し、ビッグクランチを人為的に誘発する。

「・・・どうした!早く攻撃を仕掛けぬか!彼奴は今動く事もままならぬぞ!!」
 司令官(ハゲ)が俺に向けて叫ぶ。
「宇宙崩壊まで待機する。根拠、要救助の人間の存在。
 現状で攻撃した場合、ターゲットだけではなく、要救助の人間も滅亡する。
 現状は、ターゲットの行う救助活動を静観するのが適切と判断。」
「彼らには消えてもらわねば困るのだ!!」
 司令官(ハゲ)がまた叫ぶ・・・しかし、今、何と言ったか。
「・・・何?」
「奴は人間達を助けているのだぞ!
 ただでさえ我らの宇宙でも、奴を突如現れた救世主呼ばわりする輩が現れ始めているのだ!
 我々があの化け物を倒そうと攻撃を仕掛けた事を、そのような連中が知ってみろ!
 ようやく安定した世界の基盤がまた壊れる!!」
 馬鹿、と判断。それは既に基盤が崩壊しかかっており、
 遅かれ早かれ引き金が引かれる事だ。
 それは自らの選択の結果だ。俺には関係ない。
 それに、攻撃を仕掛けられないのには、もう一つ理由があった。
「・・・根拠その二。現状で攻撃を開始した場合、攻撃する前に本機も宇宙の崩壊に巻き込まれる。
 イレギュラーと違い、本機に宇宙の崩壊に耐え得る要素はない。
 よって、現在攻撃を仕掛けた場合、確実に敗北する。」
 俺の機体は、彼奴の機体ほど頑丈ではない。
 まったく、自らが指揮する機体のスペックくらい、
 司令官ならしっかりと把握しておいて貰いたいものだ。
 ・・・人助けについてはイレギュラーをとやかく言う事はしない。
 上記の根拠が無ければ、俺は恐らくこの状況下でも攻撃をかけるだろう。
 だが、もし俺が奴と同じ状況下に置かれた場合は、
 恐らく俺は奴と同じ行動を選択するだろうからな。
「ぬ、ぬうううぅぅ・・・!」
 司令官(ハゲ)が唸る。
「問題ない・・・封印は遂行する。」
 俺は通信を切断する。

 奴の行動から、奴の優しさが把握できる。
 すべき事もする事も変わらない。だが、奴のこの行動を、俺は記憶中枢に克明に刻む。
 ・・・これほどの優しさを持っていても、ただ力を持っているだけで、
 人間はそれを争いの火種にしてしまえるのだから・・・。
 恨むならば、自らの存在そのものの悲劇を恨め。
 この世界の人間があまりに愚かだった事を恨め。
 ・・・思考ノイズか?優しさなど、恨みなど・・・俺の判断基準ではない。
 しかし、作戦行動の続行に影響はないと判断。
 取り敢えず思考ノイズは放置する事にする。

 境界空間へ、小型の脱出艇が数機出てくる。
 どうやら、無事に脱出させる事が出来たらしい。

 ・・・作戦開始までの秒読み開始が必要と判断。

 ・・・来る。

 世界崩壊の凄まじい衝撃波。
 しかし、脱出艇には全く影響は無かった。

 イレギュラーが被害を抑えたのだろう。
 ・・・見事、と判断。

 そして、その爆発は、同時に俺にとっての作戦開始の合図でもある。

「・・・作戦行動を、開始する・・・!」

 俺はEWZ-999を、いまだ爆風が荒れ狂う爆心へと進ませた・・・。

続く

04_信念 ―守護―

 私は、この世界を守りたかった。
 しかし、なぜ、私はその使命に固執するのか。

 私自身、まだ、良く分からなかった。


 ・・・異形を殲滅した直後、私は緊急事態を察知した。
 それは、私が目覚めた世界。
 今、私の目の前で、世界が、悲鳴を上げていた。

「・・・世界が、鳴動している・・・!?」
 何かが起こっている。重力の異常・・・ビッグクランチの発生!?
 ビッグクランチ・・・ブラックホールの過剰発生による一つの宇宙、世界の最期。

 本来、現在発生する筈がない事態。
 エルヴズユンデで、私はその世界に急いだ。

 既に、地面は砕け始めている。かなりまずい状況だ。
 まず、エルヴズユンデのアクセス能力で、可能な限り進行を抑える。
 止まらない。ここまで進行力が強いとは・・・やはり、これは異常だ。

 ならば、すべきはこの宇宙にいる人間を逃がす事だ。
 幸い、この世界に住む人間の人数はそこまで多くない。
 ・・・間に合うはずだ。

 集落ではやはりパニックになっていた。
「皆さん!エルヴズユンデの近くに!この機体周辺では重力異常を抑えています!!」
 私の一声で、集落の人々はエルヴズユンデの周辺に集まってくれた。
「まず、皆さん落ち着いてください。この世界は、間も無く崩壊します。
 ・・・ここにも旧文明の遺産はある筈です。それを利用し、急ぎ脱出してください!」
 周囲の情景を確認する。やはり思ったよりも崩壊が早い。
 ん?集落の人々が指差している・・・?
 ・・・成る程、これは問題か。
 私の眼に飛び込んできたのは、旧文明の大型艦船。
 ただし、明らかに動力部が完全に壊れている。
 ・・・飛び立てそうにない。
「分かりました。ならば、あの艦船の脱出艇は使えますか!?
 境界空間へのゲートを開き、脱出艇を境界空間へと脱出させます!
 さぁ、エルヴズユンデの両手に乗って!!」
 エルヴズユンデが、人間達を乗せて、大型艦船の横につける。
「さぁ、早く!!」
 手から、人々が降り、艦船の中へと走り出す。

 ・・・?どうしたのだろうか。
 一人の少女が、エルヴズユンデの足元にまだ残っている。
「どうしたのです!早く!」
「・・・お姉ちゃん、名前・・・!」
 ・・・律儀な娘だ。
「私はギルティア。ギルティア=ループリング。」
「ギルティアお姉ちゃん・・・ありがとう!またね!」
 少女は私に笑顔で手を振ってから、走り出した。
「ふふ・・・必ず、生き延びてくださいね。」
 私も、エルヴズユンデの胸部を開き、笑顔で少女を見送る。
 何故だろう、自然と笑顔になっていた。

 ・・・どうやら、脱出艇の準備が整ったらしい。
「境界空間へのゲートを開きます!」
 エルヴズユンデの力で、境界空間へのゲートを開いた。
 複数の脱出艇が、境界空間へと飛んでいく。

 よし、間に合った。
 後は、この宇宙の崩壊による他の宇宙、境界空間への被害を抑えなければ―――
「・・・ワールドコアアクセス・・・コンプリート・・・!
 我が生を受けし過ちの世界よ!今こそ全てを解き放つ時・・・!
 滅び行く世界よ!共に解き放たれた希望達の未来を祈りましょう・・・鮮血の、煌翼!!」
 自らの力を解放した次の瞬間、私の視界は真っ白に染まった。

 私は願った。皆、無事で生きていて欲しい、と・・・。

続く

03_恐怖 ―誕生―

「あ、あれだけの異形を・・・一瞬で、だと・・・!?」

「化け物め・・・!」

「もう二度とあのような者が跋扈する世界になど、するものか!」

「すぐに彼奴のデータを収集、全兵力を結集し、奴との戦闘に備えるのだ!」


 ・・・起動プロセス発動。

 ジェネレータ異常なし。
 各関節、正常に稼動。
 記憶中枢、思考中枢、正常に動作。
 結論、正常に起動を終了。

 現状確認を実行。
 現在位置、『地球』、中央大陸、第八生体研究所。
 製造目的、イレギュラー要素の排除。対象名、不明。

 ・・・俺に名は無い。
 コードネームは『アイギス』・・・呼称名が欲しいのなら、そう呼ぶと良い。

 無機質な鋼のベッドで、俺は起動した。
「・・・起動を正常に終了。指示を請う。」
 静かに身を起こし、目の前に群れを成している製造者からの指示を待つ。
「記憶中枢のリセットは正常か確認する。」
 主任研究者と思しき、最も前に立っている初老の男が言う。
「了解。現在の稼動データをそちらに転送する。
 現状自己認識、記憶中枢、思考中枢共にノイズ無し。
 記憶中枢リセットは正常に完了と認識。」
「こちらのデータでもそれは確認させてもらった。」

 俺は、人間を材料に生み出された兵器だ。
 異形と化した人間を捕獲、記憶をリセット、
 幾つかのジェネレータを搭載して完成された。

 目的は、この宇宙付近での異形との戦闘中に突如として出現したイレギュラーの排除。
 現在、ターゲットは遠方の境界空間にて異形と交戦中。

 旧宇宙群のデータベースと照合した結果、
 イレギュラーの正体はこの宇宙群の化身『鍵』であると判明。
 同データベースにより、鍵はこの宇宙群の根元とアクセスし、
 強大な力を行使することが可能と判明。
 現状の兵器で鍵の排除は不可能と判断、旧宇宙群の際と同じく永久封印する事に決定。
 現在、旧宇宙群の遺産を利用し、この世界に残された量産機を対イレギュラー用に改造中。


 以下は俺とは直接関係のない情報だが、
 情報の内容からイレギュラー排除の理由と判断、記憶中枢の片隅に記録しておく。

 ・・・旧宇宙群崩壊の原因は、当時の宇宙群の支配者と、
 強大な力を持ったイレギュラーとの全面戦争である。
 イレギュラーの目的は『自らとその同胞の生存権の確保』。
 支配者の目的は『世界構造に異常をもたらす不確定要素の排除』。
 それらの戦闘は、宇宙群全体、そしてそこに住む人間全てを巻き込んで激化、
 その戦闘の余波で宇宙群は真っ二つになった。
 ・・・この宇宙に住んでいるのは、その巻き込まれた人間の生き残りだ。

 人間の思考パターンと以上のデータから推測、
 それは人間には恐怖にしか映らなかった、と、判断。
 イレギュラーの行動動機がどうあれ、
 人間はそれに恐怖し、排除する事しか考えなかったと理解。
 人間の危険性について認識・・・しかし、それに生み出されたのが俺なのだ。

「現在のイレギュラーの状況の情報を請う。」
 まずは排除対象の現在位置と状況を確認する。
 作戦指示を受けなくては戦う事も出来ない。
「ならば、まずは地下の格納庫へ、ついてくるが良い・・・。
 お前が搭乗する事になる機動兵器を確認させる。」
「了解。」
 主任と思しき男が歩き出す。俺もそれに続く。

 そうこう思考している内に、格納庫に到着した。
 今、俺の目の前には、灰色と黒の色が主体の細身の機動兵器が仁王立ちしている。
 この宇宙の量産機、EWS-62の改造機と推測。
「EWZ-999『アイギス』。既に武装も装着を完了、いつでも出撃可能だ。」
「了解。機体データに関する情報を希望する。」
「分かった、スペック、武装運用に関するデータを送信する。」
 男が、手に持った携帯用端末を操作する。
 俺の脳内に、再び夥しい情報が入ってくる。

 スペック、武装共に驚愕の完成度と確認。
 まさか、イレギュラーの出現からまだ一週間もたたずに、
 ここまでの機動兵器を完成させたのか。
 いくら、旧文明にそれに対応する為の情報の断片と、今俺に組み込まれているジェネレーター、
 そして、『鍵』の封印用のデータが存在したとはいえ、早すぎる。
 イレギュラーの事を、人間は化け物と呼んだ・・・。
 ・・・が、ここまでの事を実行可能な人間も実際は同じ穴の狢ではないのか。
 ・・・元々が異形である俺が言えた事ではないと判断。

「機体スペック、戦闘方法を把握、戦闘可能。作戦についての情報を請う。」
「・・・司令部に繋ぐ。」
 男が、格納庫の隅のモニターを操作する。
「そちらの切り札は完成したのか?」
 モニターに映った男。第一印象、ハゲ。
 恐らく、若い時に藻類の摂取が不足していたのだろうと推測。
 ・・・不要の推測と判断するも、何故か頭から離れない。よって、記憶中枢の片隅に記憶。
 データより、この宇宙の軍司令官と理解。
「はっ!たったいま制御装置、機動兵器ともに正常に起動いたしました。」
「彼奴はもうすぐ、異形の殲滅を完了するだろう。その後すぐに作戦を開始する。
 まず、あの化け物を、付近の中規模世界に釘付けにする・・・その隙に封印せよ。
 機動兵器による支援は出来ぬ・・・先程の戦闘で大半が消耗してしまったからな。」
「・・・一体、何をする気です?」
「詮索は不要だ。丁度、遺産からおあつらえの兵器が発見されたのでな。」
 司令官はそう言って不適に笑った。
「了解。」

 おあつらえの兵器、とは?
 旧文明のデータから、現存する兵器の破壊力では、
 イレギュラーに有効打を与えられないのは既に確実。
 それほどの威力がある旧文明の兵器は一体どのようなものなのだろうか。
「・・・作戦目的を確認したい。」
「お前は、出撃命令が出次第出撃、
 以後、司令官の言った『おあつらえの兵器』の機能に応じた行動を取れ!
 封印機構を使えるのは一度きりだ。くれぐれも慎重にな。」
「了解。」
 俺は、EWZ-999の胸部にあるコクピットに乗り込み、出撃命令を静かに待つ。
 しかし、先程の司令官の笑い。何処か違和感を感じた。
 この戦い、ただでは終わらんかもしれないな・・・。
 しかし推測は無意味だと判断。出撃命令の確認まで思考中枢、
 記憶中枢をスリープモードに変更する。
 ・・・人間で言えば、つまり、出撃まで寝る、という事になる。
 俺は、迫り来る眠気に、暫し自らの身を委ねた・・・。

続く
プロフィール

白翼冥竜

Author:白翼冥竜
辺境ロボットサークルのリーダーにして、
勇者ロボットをこよなく愛する男。

「地平の旅人」第一期、完結。
気になる方は、ピクシブ、もしくはエブリスタで検索を。

ネタやキャラについて語りたくてしょうがないが、本編を書き進めなければ語れぬこのしんどさたるや。
地道に農作業をしつつ、現在「地平の旅人ZWEI」をピクシブにて連載中。

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