地平の旅人クロス影貴一座 第五話:マインド、再び

第五話:マインド、再び

ハヤテとユキノは校舎裏にいた。
「・・・で、話したい事って?」
ハヤテが尋ねる。
「その・・・。」
ユキノが、少し言葉に詰まり、そして続ける。
「・・・私、ずっと前からハヤテ君の事が・・・。」
「え?え!?ちょ、ちょっと、そ、そそ、それって!?」
あまりに唐突な申し出に、ハヤテは驚愕する。
ハヤテはユキノの事が確かに好きだった。
しかし、ユキノからの告白は、あまりに唐突過ぎた。
「ふふ・・・やっぱり、可愛いわ。」
ユキノは、そう言って笑った。
「・・・!?」
もしこれが現実なら、確かにハヤテにとっても願っても無い事だったが、
ユキノの発言に、ハヤテは強い違和感を感じた。
普段のユキノと、言動、行動共に、明らかに異なる。
いや、確かに非常に良く似ているが、何かが、根本的な何かが違うのだ。
「ユキノさん・・・僕も好きですよ・・・もっとも、本当の貴女が、ですが。」
ハヤテの口が、自然と言葉を紡ぐ。
そう、ハヤテが好きだったのは、本当のユキノだった。
「私は私よ・・・そう、これが本当の私・・・。」
間違いない。彼女はマインドに操られている。
ハヤテは、そう確信した。
あまりに、現実離れしすぎていたのだ。
確かに、夢だった。しかし、それは、まだ叶える前の夢だ。
「違う・・・お前は本当のユキノさんじゃない・・・!」
一歩離れ魔法を唱えようとするが、足が動かない。
「・・・逃げなくても平気よ・・・。」
足が凍っている。
「・・・!」
「私と一緒に眠りましょう?氷の棺で、ずっと一緒に・・・。」
ユキノが、ハヤテを抱きしめる。
冷たい抱擁。ハヤテの体が、じわりじわりと凍り始める。
「・・・くっ・・・!!」
これが本物だったら願っても無いんだがなぁ・・・と、ハヤテは心の中で思った。
しかし、それはこれからの事であって、今の事では無い。
それを叶える為にも、ここで凍死する訳には行かない。
「ここで負けて・・・たまるかァ!!」
ハヤテの叫びに答えるように、魔法剣が強い光を放つ。
「ッ!?」
ユキノが退く。
「ユキノさん・・・大丈夫、必ず助けるよ・・・!」
炎の魔法を乗せた剣で、足の氷を溶かす。
「僕が、助ける!!」
大声で叫ぶと、ハヤテは魔法剣を構えた。
「あら?私に勝てるつもりでいるの・・・?」
「本物のユキノさんならともかく・・・マインドなんかに負けてたまるか!!」
「大人しく凍っていれば、愛する人と一緒に眠れたのに・・・後悔なさい。
・・・サララフリーズ・・・!!」
ユキノが、不気味な笑いを浮かべる。
次の瞬間、物凄い冷気と風がハヤテを襲う。
「う、くうううううっ!!」
しかし、再び炎の魔法を乗せた剣を振るい、それを掻き消す。
「けど、その剣を私に使えば、どうなるか分かっているんでしょう・・・?」
雪女という種族であるユキノは、非常に熱に弱い。
もし、炎の魔法などを直接叩き込んだりしたら、
たとえマインドを追い出せたとしても、彼女自身もただではすまない。
しかし、ハヤテは次の手を既に考えていた。
「・・・これなら、どうだ!!」
氷の魔法を帯びた魔法剣を、ハヤテは構えた。
「ふふ・・・それが効くとでも・・・?」
「ユキノさんには効かないだろうな・・・けど、マインド、お前は別だ!!」
ハヤテが、ユキノに剣を叩き込む。
「くうっ・・・!」
ユキノ自身に傷は無い。
しかし、一瞬、確かにユキノは身体を斬られた痛みを感じた。
いや、正確には、ユキノを乗っ取ったマインドが、だが。
「成る程・・・しかし、威力が足りないわね・・・残念。
もし私を追い出したいなら、これくらいはしないと・・・キララフリーズ!!」
先程の冷気と風とは明らかに桁が違う威力の、
まさに吹雪と呼ぶに相応しい魔法が、ハヤテを襲う。
先程は耐えられたが、この一撃は危険だ。
「負けられないと、言ったはずだよ!!」
しかし、ハヤテも、炎の魔法を剣に乗せ、吹雪に向けて剣を振るう。
ただ、必死だった。ユキノを救わねばならない。
今のハヤテには、それしか頭になかった。
炎の魔法が、吹雪に掻き消される。
「!」
吹雪が、ハヤテを飲み込もうと迫る。
「ユキノさん・・・ごめん・・・」
ハヤテが、目を閉じる。
しかし、吹雪はハヤテを飲み込む事は無かった。
「・・・?」
ハヤテが、目を開ける。
「あなたの勇気・・・確かに聞こえましたよ・・・!」
「な・・・っ・・・!?」
ユキノが驚愕する。
ギルティアが、吹雪とハヤテの間に割り込み、左腕の爪で吹雪を抑えていた。
見ると、ギルティアの背に、白い鳥系の翼と黒い蝙蝠系の翼が生えている。
更に、腰の辺りから黒い鳥系の翼が生えている。
「・・・ギルティア・・・どうして、ここに?」
「ハヤテさん、先程大声で叫んだではありませんか・・・ユキノさんを、助けると。
・・・こっちまでしっかりと響いてきてましたよ。」
ギルティアは、そう言って微笑んだ。
「・・・大切な人、なのでしょう?」
ハヤテは、無言で頷く。
「・・・それだけ分かれば、私が戦うには十分です。」
ギルティアが左腕の爪を前に突き出す。
「・・・ワールドコアアクセス・・・コンプリート・・・。」
ギルティアの爪の前に、紅の魔法陣が展開される。
「我を招き入れし寛容なる世界よ!
汝と鍵たる我が名を以て、我らに仇成す者に遍く滅びを・・・!
我が存在を受け入れし寛容なる者の愛する者に、遍く救いを・・・!
今こそ全てを解き放つ時・・・さぁ、共に未来を謳いましょう・・・鮮血の、煌翼!!」
四枚の翼が、紅の光に、まるで焼き尽くされるように飲み込まれ、四枚の紅の光の翼になる。
「全力で行きます・・・!」
光の翼が羽ばたき、紅の光の羽が舞い散る。
吹雪が、その羽ばたきに掻き消された。
「そんな、馬鹿な・・・!?」
ユキノが驚愕し、逃走する。
「非致死威力のレーザー程度では・・・吹雪に掻き消されて駄目ですね・・・。
しかし、何とかしなくては・・・ハヤテさん、追いますよ!!」
ギルティアがそれを追って駆け出す。
「ああ!」
ハヤテも、それに続く。

一方、学校内に侵入したスナミは、サラと対峙していた。
「まさか、貴女の方から来るなんて・・・嬉しいわ。」
サラが、杖を構える。
「・・・あー・・・よりにもよってこんな厄介な娘に・・・。」
スナミが、冷や汗をかく。
「出向く手間が省けたわ・・・そのお礼に・・・、
逃げなければ苦しめずに一撃で消し飛ばしてあげる!!」
サラの杖に、紅の光が集まる。
「ハート弾は女の子には効果薄だし・・・この場は・・・逃ーげよっ!!」
「紅蓮の彗星ッ!!!」
杖に集まった光が、一筋の光条となって解き放たれるのと、
スナミが駆け出すのは、ほぼ同時だった。
直後、スナミの背後で爆発が発生する。かなりの威力だ。
「・・・って、強っ!」
背後の爆発に、スナミが驚き、ますます急いで逃げる。
スナミが逃げていると、こげ茶色の少女がスナミの方に走ってきている。
「あ、スナミさん!」
「テスタリアちゃん!?」
「今、サラがそっちに・・・!」
テスタリアと呼ばれた少女が叫ぶ。
「彼女はマインドに操られてるわ!逃げて!!」
その言葉に、テスタリアは静かに頷き、口を開いた。
「・・・スナミさん、ここは私に任せて!!」
テスタリアとスナミが、交差する。
「え・・・!?」
スナミが見ると、テスタリアは杖を構えていた。
「テスタリアちゃんの力じゃ・・・!」
「・・・そこから先は言いっこ無し!
・・・困った時はお互い様、でしょ?」
テスタリアは、そう言ってウィンクした。
サラが後方から、先程の魔法を使用しようと追跡してきている。
「・・・サラ、私を馬鹿にした事、後悔させてあげるわ!!」
テスタリアが杖を構える。
「凡人は引っ込んでなさい!!」
「・・・私が凡人?」
テスタリアの杖に、白い光が集まる。
「言ったわよ・・・私は、今世紀最強の魔法使いだってね!!
だから、言わせて貰うわ・・・凡人は・・・引っ込んでなさい!!」
「なら・・・お望み通りスナミより先に片付けてあげるわ・・・!」
サラが、既に光が集まった杖を構える。
「白銀の彗星!!」
「紅蓮の彗星!!」
白い光と紅の光が正面から激突する。
双方の魔法が、完全に相殺される。
「凄い・・・。」
スナミが、逃げながら驚愕する。
「これで少しは時間が稼げるはず・・・!」
テスタリアも、走り出した。

ハヤテとギルティアは、逃走するユキノを追い続けていた。
「・・・ぜぇ・・・ぜぇ・・・しつこいわね・・・!」
ユキノが振り向き、再び吹雪の魔法を放つ。
ギルティアがハヤテの前に立ち、吹雪を防ぐ。
「ギルティア!」
「大丈夫です、この程度・・・!!」
事実、ギルティアの光の翼から散る光の羽が、吹雪を止めている。
ユキノがニヤリと笑う。
「・・・ふふ・・・けど、そうやって余裕を見せていると・・・こうなるわよ。」
「・・・!」
ギルティアの頭上に巨大なつららが展開されている。
「喰らいなさい!!」
「何のっ!!」
降り注ぐつららを剣で両断する。
しかし、その一瞬の隙を突いて、再びユキノは逃走する。
少なくとも、二人の視界から消えている。
「・・・ハヤテさん。」
「?」
「これをあなたに渡しておきます。」
ギルティアが、銀色の結晶のようなものをハヤテに手渡す。
「・・・これは?」
「私とどこでも話が出来る超小型の通信機、といえば分かりやすいですね。
・・・私が、空中から逃げたユキノさんを探します。
場所を見つけ次第、ハヤテさんに連絡します!!」
「成る程・・・分かった!」
ハヤテが頷くと、ギルティアは空中へ飛び立つ。
「それでは、また後で!!」
「ああ、任せるよ!」
ギルティアが空中から、逃走を続けるユキノを発見する。
「ハヤテさん!早速発見しました!
ハヤテさんの現在位置から南東に三百メートル先の地点です!!」
しかし、そのままギルティアは驚愕してしまった。
その反対側から、スナミとこげ茶色の髪の少女が、
魔法を乱射する紫色の髪の少女に追われているのだ。
「・・・ス、スナミさん!どうして此処に!?」
ギルティアが叫び、スナミと、その追ってきている紫色の髪の少女の間に降りる。
「そ、それはこっちの台詞・・・って、ギルティアちゃん、危ない、避けて!!」
「邪魔をしないで!紅蓮の・・・彗星!!」
紫色の髪の少女が、杖に集まった紅の光をギルティアめがけて放つ。
「上等、です・・・!!」
ギルティアが、左腕の爪でそれを受け止める。
「成る程、貴女が例の曰くつきの転校生ね・・・ただの化け物じゃないの。」
「ええ、私をそう呼ぶ者もいますね。」
ギルティアが、そう言って笑った。
そう呼ばれる事には、慣れている。
「ギルティアちゃん、その娘は、サラは・・・マインドに操られてるわ!!」
「ええ、私の方でも、ユキノさんという方が・・・!
・・・サラさんの反対側から来てます!」
「ええ!?」
見ると、確かに向こうからユキノが走ってきている。
「ユキノちゃんまで!?」
「ハヤテさんが今、追って我々に合流する筈です!
しかし、このままでは挟撃です・・・!!
私ならば問題はありませんが・・・」
「私も手伝います!」
こげ茶色の髪の少女が言う。
「貴女は?」
「私はテスタリア・フェール!今世紀最強の魔女です!」
「今世紀最強とは・・・ふふ、気に入りました。
私はギルティア。ギルティア=ループリングと申します。
手伝って頂けるのはありがたいですが、無理はなさらぬようにお願いします。」
「分かったわ、ギルティアさん!」
テスタリアとギルティアが、それぞれ左右に背中合わせに立つ。
「スナミさんは・・・ハート弾で援護をお願いします!!」
「任せて、ギルティアちゃん!」
ギルティアの左腕の爪と、テスタリアの杖に、光が集まる。
サラとユキノも、それぞれが杖を構え、その杖に光が集まる。
「クローバースト!!」
「白銀の彗星!!」
「紅蓮の彗星!!」
「蒼の彗星!!」
二筋光条が左右に放たれると同時に、
青と赤の光がそれに向けて襲い掛かる。
それぞれが相殺される。
「バキューン!!」
相殺された所に、サラとユキノ目掛けてハート弾が叩き込まれる。
「やっと見つけた!」
その言葉と共に、ハヤテがユキノの後方に躍り出た。
「ナイスタイミングです、ハヤテさん!」
ギルティアが、ウィンクする。
「って、スナミにテスタリア、それにサラまで!!
こりゃ、一体どうなってるんだ!?」
「・・・サラさんも、どうやらマインドに操られているようです!
スナミさん、テスタリアさん、私が援護します!ハヤテさんに合流してください!!」
ギルティアが、剣と爪を構えて叫ぶ。
「え!?けど・・・!!」
「大丈夫、慣れてますから・・・。
この紅の翼は、伊達ではありません・・・!」
ギルティアは、そう言って笑った。
「・・・分かったわ、テスタリアちゃん、行きましょう!!」
「え!?」
「大丈夫、ギルティアちゃんは、
テスタリアちゃんが思ってるより、ずっと強い娘だから!」
そう言って、スナミはハヤテの方へと駆け出す。
「逃がさないわよ・・・!」
「わざわざこっちに逃げるなんて・・・馬鹿ね。」
サラが、再び紅蓮の彗星を放つ。
更に、ユキノが再び吹雪を発生させる。
ギルティアが、翼の羽ばたきで吹雪をかき消す。
「私の前で友を傷つけさせは・・・しません!!」
紅蓮の彗星を、左腕の爪で強引に押さえた。
「ふんっ!!」
そして、抑えられた光を、握り潰す。
ギルティアの左腕の爪から、血が滴る。
「何て・・・奴・・・!」
「やっぱり・・・化け物ね。」
サラとユキノが呟く。
そして、スナミ達がハヤテに合流できた事を確認し、
ギルティアは空中に飛び、三人の前に降りる。
「何よ・・・貴女の方が、私達よりずっと化け物じゃない・・・。」
「違・・・!」
スナミが言おうとした時、それをギルティアは遮る。
「良いのです、スナミさん・・・よく言われる事ですよ。
・・・事実ですから、否定はしません。」
ギルティアは、そう言って微笑んだ。
「・・・しかし・・・どちらか一方でも、何とかする方法は無いでしょうか?」
ギルティアが尋ねる。
「・・・うーん・・・やってみますか。」
スナミが、コホン、と咳払いをして口を開く。
「やれやれ・・・私を馬鹿にしておいて、
随分と簡単に操られちゃうじゃないの?この海女ちゃん!!」
スナミが、サラに叫ぶ。
「・・・!」
サラが、微かに反応する。
「やーいやーい!悔しかったら自力でマインドを追いだしてみなさいよ~!!」
スナミが、更に挑発する。
「だ・・・まれ・・・さっきまで・・・私相手に・・・逃げ回ってたくせに・・・!!」
サラが、紅蓮の彗星を放つ。
しかし、それを、ギルティアが再び剣でかき消す。
「あら?私が逃げた?いつ?貴女相手に逃げるわけないじゃない!
私が逃げたのはマインドからよ~♪」

私が逃げたのはマインドからよ~♪

「わ、私を・・・私を・・・」
サラが、動きを止める。
「なめるなぁぁぁぁぁぁ!!!!」
サラの叫び。それと同時に、マインドが、
彼女からまるで吹き飛ばされるように出てきた。
「ふぅ、ざっとこんな物よ?伝説の魔法使いさん?」
サラが、ニヤリと笑った。そして、また杖を構える。
「・・・けど、さっきの言葉は・・・!」
サラの杖に、光が集まる。
「・・・撤回しなさい!!」
そして、サラがスナミに向けて紅蓮の彗星を乱射する。
先程と比べて威力は加減されているが、容赦がない連射だ。
「きゃー!!」
スナミが、再び逃走する。
「待ちなさーい!!」
サラは、そう叫んで、逃げたスナミを追っていった。
「あの、まだ一人残って・・・!」
ギルティアは、そう言いかけた所で、
ため息をついてユキノの方に向き直る。
「・・・まぁ、相手が一人減ったのですから、よしとしましょう。」
「く・・・っ・・・!」
「さぁ、さっさとユキノさんから出ていけ!!」
ハヤテが叫ぶ。
「・・・馬鹿にしないで。私一人?私一人で、十分よ・・・!」
大量の氷弾が、残った三人に襲いかかる。
先程までの吹雪と違い、氷の塊はギルティアの紅の光の翼でも完全に減衰できない。
減衰できなかった氷弾が後ろの二人に行かないように、
ギルティアが剣と爪でそれらを叩き落し続ける。
「・・・ハヤテさん!彼女に何か弱点は無いのですか!?」
「彼女は、雪女だから熱に弱い・・・けど、炎の魔法じゃ彼女もただじゃ済まない・・・!!」
「どの程度の威力ならば、弱らせる程度にとどめられますか?」
「弱らせる・・・うーん、夏の直射日光でもかなり弱ってたけど・・・。」
ギルティアが、それに頷く。
「・・・それだけ分かれば、十分です!三十秒・・・時間を下さい!!」
「え!?」
「・・・私が彼女を弱らせます!
今のハヤテさんの発言で、方法は見つかりました!!
三十秒、何とか彼女の攻撃を凌いで下さい!!」
「あ、ああ・・・だが、三十秒、持つかどうか・・・。」
「・・・私もいます、任せて!」
テスタリアが叫ぶ。
「・・・了解です!」
ギルティアが、左腕の爪を突きだす。すると、その前に魔法陣が展開される。
「・・・エルヴズユンデ、起動!!」
そして、ギルティアは魔法陣に突入して、その姿を消した。
「ギルティアさん!?」
思わず、テスタリアが叫ぶ。
山の方から、轟音が響く。
「!?」
テスタリアが山の方を見る。
山の方に突き刺さっていた巨大な鉄の塊が、立ち上がっている。
エルヴズユンデが、再起動したのだ。
「くっ・・・これでも喰らいなさい!ギララフリーズ!!」
先程の吹雪よりさらに強力な吹雪が、二人を襲う。
「くっ・・・三十秒も持たないのか・・・!?」
とっさに振るった炎を帯びた剣も、
その凄まじい風と雪にかき消されるが、次の瞬間、その風と雪もピタリと止まった。
「・・・?」
「ふふ・・・この土壇場で役に立つとは思わなかったわ・・・。」
銀色の壁が、ハヤテに襲いかかる吹雪を受け止めていた。
テスタリアは、ハヤテの後ろに立っている。
「これぞ、超防壁魔法、白銀の絆!!
まだ、未完成だから・・・少し消耗は激しいけど・・・三十秒くらいなら・・・!」
テスタリアが、息を切らしている。

一方、エルヴズユンデの胸部で、ギルティアが照準を定めていた。
「・・・照準、出力調整完了。」
エルヴズユンデの胸部に、光が集まる。
「行きますよ、ハヤテさん!プリズナーブラスター・・・バァァァァァストッ!!!!」
エルヴズユンデの胸部から、光が解き放たれる。
それは、弾道を変え、ユキノの頭上に正確に降り注いだ。
「なっ!?」
吹雪が弱まる。
「この熱は・・・流石にきついわ・・・。」
ユキノが、息を切らす。
「ギルティア!?」
ハヤテが、ギルティアに通信を入れる。
「私の機体の熱量砲の出力を調整して照射しています!
今なら、彼女の力は抑え込まれている筈です!!」
「・・・分かった!」
そして、テスタリアが膝をつく。
「持ちこたえた、わ・・・さ、流石私・・・。」
「テスタリア・・・ありがとう、ここから先は、僕の仕事だよ・・・!!」
ハヤテが、炎を纏った剣の一振りで、吹雪をかき消す。
「くぅ・・・力が入らないわ・・・。」
ユキノが、額の汗をぬぐう。
「けど、まだまだ・・・!」
ユキノの杖に氷が集まり、剣の形状を形作る。
一方、ハヤテの剣にも、氷の魔法が乗る。
「行くわよ、ハヤテくん!」
「マインドに、ハヤテくんと呼ばれたくはないね!!」
ハヤテが振り下ろした剣を、ユキノが止める。
「ユキノさんは・・・僕が助ける!!」
ハヤテが強引に剣を振り抜く。
ユキノが振り下ろされた剣を受け流し、横に剣を振り払う。
ハヤテが、とっさに一歩下がって回避するが、掠める。
「あっぶなー・・・。」
「良い動き・・・剣士としても将来有望ね・・・。
・・・くっ・・・楽しいのに・・・体がついてこないわ・・・。」
「隙ありっ!!」
ハヤテがもう一度踏み込む。
「けどっ!!」
剣閃が交差する。
「まだだ!」
ハヤテが、更に反転し、踏み込む。
ユキノが、振り向き様にそれを受け止める。
しかし、刀身を構成していた氷が、砕けた。
「・・・!」
「たああああああああああああっ!!」
氷の魔法を宿した刃が、ユキノに取り付いたマインドに向けて振るわれる。
ユキノが倒れた。
「・・・よし!!」
ハヤテが、満足そうに頷く。
マインドが、ユキノから出てくる。
「・・・見事、ね・・・。」
かなり大きい。
しかも、そのマインドは、女性に近い姿をしていた。
「・・・楽しかったわよ、ハヤテくん。」
「だから、僕の事をハヤテくんって呼ぶな!」
「つれないのね・・・まぁ、いっか。
しかし、君のような子にここまでまっすぐに慕われて、
・・・本当、この娘が羨ましいわ。」
マインドが、呟いた。
「え・・・?」
「ううん、何でもないわ・・・また会いましょう、ハヤテくん。」
そう言って、マインドは姿を消した・・・。
ギルティアも、戦闘が終わった事を確認し、
エルヴズユンデを再び山に座らせ、そのまま学校の方へと飛んでいく。
ハヤテが、ユキノの方へ駆け寄る。
「ユキノさん!ユキノさん!!」
ハヤテが、ユキノを抱き起こす。
見ると、先程のブラスターの影響か、
ユキノは健康的に日焼けしていた。
ブラスターの熱量で汗もかいており、
普段の彼女とは違う雰囲気に、ハヤテは少しドキッとする。
「ん・・・私・・・一体・・・?」
ユキノが目を覚ます。
「良かった・・・無事で・・・。」
「そっか・・・私、マインドに・・・。
・・・迷惑、かけちゃったかしら?」
「いや、ユキノさんが無事なら、それで良いよ。」
ハヤテは、そう言って笑った。
「・・・ありがとう、ハヤテくん。」
本当のユキノに『ハヤテくん』と呼ばれ、ハヤテは心底安堵した。
「しかし・・・少し肌が痛いわね・・・。」
「それは、出力の調整を少し上げすぎましたね・・・申し訳ありません。」
ギルティアが、空中から降りてくる。
そして、地面に降りると、爪は元の腕に戻り、翼は消えた。
「・・・貴女は?」
「私は、ギルティア=ループリング・・・故あってこの学校で調べ物をさせて頂いています。」
ギルティアは、そう言って頭を下げた。
「私は、ユキノ・シスシー・・・どうやら、助けていただいたみたいね・・・ありがとう。」
「いえいえ・・・こちらこそ、出力調整を少し失敗したようです。」
「ただ、全身が日焼けしたようになっただけだし・・・これくらいなら、大丈夫よ。」
ユキノは、そう言って笑った。
「・・・良かった・・・。」
「しかし・・・意外と強かったのね、ハヤテ。」
後から声がした。
テスタリアだった。
「テスタリアさんも・・・ありがとうございます。
テスタリアさんが時間を稼いでくれたお陰で、
無事、ユキノさんを救出する事が出来ました。」
「・・・困ってる人を助けるのは当然でしょ?」
テスタリアは、そう言って笑った。
「・・・その考え方、私も好きです。」
ギルティアが、そう言って笑って答えた。
「さて、事情も説明しなきゃいけないし、とりあえず職員室で報告かな?」
「そうね・・・。」
「了解です。」
四人が、職員室の方へと歩き出す。
職員室に向かう途中で、ギルティアがふと歩みを止める。
「何か、忘れているような・・・。」
ギルティアが呟く。
しかし、思い出せないという事は、
さほど重要な事では無いという事だと考え、ギルティアは再び歩き出した・・・。

一方、その頃・・・。
「待ちなさい!このシリコン女!!」
サラが、紅蓮の彗星を乱射する。
「待ったら撃たれるでしょうが・・・この、海女!!」
・・・スナミは、サラからまだ逃げ回っていた・・・。

続く

地平の旅人クロス影貴一座 第四話:片鱗

第四話:片鱗

ギルティアは、再び大図書室で、手がかりが無いか、
転移魔法関連の本を手当たり次第に調べていた。
「どれも、境界空間に影響を及ぼせるレベルの物ではありません。
・・・一体、何があったというのです・・・!」
ギルティアは、少し焦り始めていた。
早く戻らねば、あちこちの世界、宇宙に異形が増えていく事になる。
そうなれば、罪無き人間達に被害が及ぶ。
今まで、旅をしながら片っ端から異形を討伐してきたが故に、時間にはある程度の猶予はある。
しかし、あまり悠長に事を構えてもいられないだろう。
「ふむ・・・事情はある程度は聞き及んでいるが、
転移にこだわる理由を、少し聞いてもいいかの?」
ギルティアの頭上からの声。オンリだった。
「・・・オンリさん・・・分かりました。」
ギルティアが、自らがこの魔術世界に落下してきた原因を説明する。
「・・・ふむ。成る程、つまり、原因は、
お主が移動していたその境界空間とやらに影響を及ぼすほどに、
強大な力が働いたと考えたのじゃな?」
オンリが頷き、少し考える。
「・・・お主が求める物があるかどうかは分からぬが、
もし、それだけの強大な力を行使する魔法があるとすれば、
それは、この魔術世界でも禁断の魔法・・・いわゆる、禁呪と呼ばれる種類の魔法じゃろう。
本来は、禁呪の棚はごく一部の教師以外閲覧禁止じゃが・・・特別に許可してやろうぞ。」
「え・・・そ、それは・・・!」
オンリの言葉に、ギルティアが驚く。
「わらわも実は、少々禁呪というものを研究しておってな。
・・・少し、気になる事がある。」
「気になる事・・・?」
オンリの、いつも余裕の笑みを崩さない表情が、少しだけ真剣になる。
「実は、転移、空間の禁呪の書の中に・・・
・・・明らかに他と異なる本が一冊、混じっておるのじゃ。」
「他と異なる本・・・?」
「・・・ついて来るが良い。」
オンリが、本棚の上を歩き出す。
ギルティアも本棚の上に跳び、それに続く。
案内されたのは、大図書室の最上階層だった。
そこは薄暗く、明らかに下の階層と異なる空気が流れていた。
不気味で張り詰めた・・・それでいて荘厳で神々しい雰囲気がある、そんな場所だ。
「ここが、禁呪の棚の場所じゃ。」
オンリが、一冊の本を取り、ギルティアに渡す。
「記述されているのは魔法発動の術式かと思ったが、実践しても全く何も起こらなかった。
それ以前に、記述されている物、それそのものの意味すら分からなかったのじゃ・・・。」
「・・・・・・。」
ギルティアが、その本を開く。
「・・・!」
ギルティアは微かに驚き、そして、静かに呟いた。
「・・・オンリさん、これは禁呪以前に、そもそも魔法書ですらありませんよ。」
「何と!?」
オンリが、ギルティアの一言に驚いた。
「・・・構造、作用はある程度読み進めなければ分かりませんが、
これは、何らかの、非常に高度な回路の設計図です。」
「設計図、とな?」
「ええ・・・もう少し言えば、高度な科学技術は、魔法と見分けがつかないのです。」
ギルティアは、そう言って笑った。
「恐らく、私の機体の転送プロセスを見れば、
きっとこの世界の皆さんは、魔方陣と勘違いすると思います。
事実、表現的には魔方陣で合っていますから・・・
・・・実際は、根元はそう変わらないのだと思いますよ。」
「成る程な・・・この本をお主に紹介したのは正解だったらしいのう・・・。
これで、わらわ自身の疑問の一つも解けたわい。」
オンリは、そう言って笑う。
「・・・この本の素性は分からないのですか?」
ギルティアは尋ねる。無理も無い。
この世界にあるはずの無いような物だ。
「ふむ・・・わらわには分からぬな・・・。」
「そうですか・・・。」
ギルティアが頷く。
「しかし、ある時、この本の情報を徹底的に研究した魔法使いがおったらしい。
その魔法使いならば、あるいは知っていたかもしれんな。
・・・もっとも、それも遥か昔の事だ。
たとえそ奴がその真相を知っていたとしても、今は闇の中じゃろうがな。」
「そう、ですね・・・この本、お借りしてもよろしいでしょうか?」
ギルティアの言葉に、オンリが頷く。
「うむ・・・そもそも、魔術書では無いと分かった以上、
その本を禁呪の棚に置いておく理由は無い。」
「・・・はは、確かに。」
ギルティアは、そう言って笑った。

ギルティアとオンリが下に降りてくる。
「・・・この本、借りてくわよ・・・ウフフフフフフフ・・・。」
フカリだった。恐らく、わざわざ待っていてくれたのだろう。
「ほう・・・今回は何の本を借りるのじゃ?」
オンリが尋ねる。
「これ。」
フカリが、一冊の、真っ黒な本を差し出す。
表紙には『楽しい黒魔術、応用初級編』と書かれている。
「ほう・・・名前に反して難易度が高いので有名な、
『楽しい黒魔術』シリーズをここまで読み進めたか・・・。
その調子で頑張るが良い・・・。」
オンリがニヤリと笑う。
「ええ、オンリも、図書室の司書の仕事、
頑張ってね・・・ウフフフフフフフフ・・・。」
フカリは、そう言って歩いていった・・・。
「しかし・・・題名が・・・。」
ギルティアが苦笑する。
「ネーミングは著作者の趣味だそうじゃ・・・面白い奴もおるものじゃよ。」
「ははは・・・さて。」
ギルティアも、図書室の外へと歩き出す。
「それでは、また!」
「うむ、そちらも頑張ってその内容を解明するが良い。」
オンリは、歩き出したギルティアを手を振って見送った・・・。

時間は、丁度昼だった。
ギルティアの場合、調査の結果を提出するという条件で、
授業日数が免除されている。
よって、授業にはそれほど出る必要は無い。
「・・・お昼、ですか・・・。」
ギルティアが、クーリーのやっている学園内の売店に歩き出す。
「クーリーさん・・・っと、今はクーリー先生、でしたね。」
「やあ、ギルティアちゃん。調査は順調かい?」
クーリーが、ギルティアを笑顔で出迎える。
「ええ、今日、ようやく進展がありました。」
「それは良かった・・・ここに来たのは、昼食かい?」
「はい。」
ギルティアが頷く。
見ると、メニューが置いてある。
「どれどれ・・・。」
ギルティアが、一通り見て、驚きの声を上げる。
「こ、この世界にもラーメンがあるのですか・・・!!」
「ん?もしかして、ラーメンが好きなのかい?」
「ええ!・・・そうですね、では、今日は醤油豚骨をお願いします。」
ギルティアの言葉に、クーリーが頷く。
「毎度!」
ギルティアが、売店内の椅子に座って待つ。
「お、ギルティアじゃん。」
背後からの声に、ギルティアが振り向く。
フーレント家の長男、ハヤテだった。
「ハヤテさんでしたか・・・ハヤテさんも昼食を?」
「うん、ここのきび団子は絶品でね。」
ハヤテは、そう言って笑った。
「お菓子ですか・・・。」
「それ以外にも、ここは、ハズレがないんだよ。」
ハヤテが、ギルティアの隣に座る。
「成る程・・・。」
ギルティアが頷く。
「醤油ラーメン一丁!」
「分かった!」
クーリーが、続けざまに作業を開始する。
「・・・さて、と。」
ギルティアがふと見ると、ハヤテが何やら機械の端末を取り出している。
「・・・!?」
ギルティアが、驚く・・・無理も無い。
「それは?」
「ああ、ゲーム機だよ。」
そして、ギルティアは再び驚いた。
「ゲ、ゲーム機ですか・・・。」
まさか、この世界の技術レベルでゲーム機とは。
もっとも、境界空間航行技術レベルの物ではない。
その規模で考えると、たかが数世紀、といったレベルの物ではある。
技術レベルのずれは、もっと大きな規模で考えるとさほど大きい物ではなかった。
「どんなゲームを?」
ギルティアが、ハヤテの後から興味津々の表情でゲーム画面を見る。
画面内で、キャラがめまぐるしく動いている。
「・・・『魔界城伯爵様』というゲームさ。」
「ほう・・・。」
ギルティアが暫く見ていると、何となくどう動かしているのか、
目的なども見当がついてきた。
「そこは左です。次は右・・・左から敵弾!上から敵接近、接触注意です。
・・・あー、やられましたね。」
ギルティアが苦笑する。
「・・・やってみる?」
「良いのですか?なら、ラーメンが出来るまでの間、やってみますか・・・。」
ギルティアが、ハヤテからゲーム機を受け取る。
「・・・ええと、お、これですね。」
ギルティアが、操作方法を確認し、ゲームを開始する。
しかし、次の瞬間からのギルティアの操作に、ハヤテは驚いてしまった。
まるで極めているかのように、全ての敵の攻撃を的確な操作で回避している。
「ええと、一ステージをクリアしましたが・・・。
・・・成る程、確かに、これは面白いですね。」
ギルティアが、ハヤテにゲーム機を返す。
「醤油豚骨、お待ち!」
クーリーの言葉に、ギルティアがラーメンを取りに行く。
「ほう・・・これは・・・。」
ギルティアが食べ始める。
「・・・なぁ、ギルティア。」
「はい?」
「本当に、このゲーム、初めてか?」
ハヤテが尋ねる。
「ええ・・・しかし、機動兵器の操縦も同じような物・・・いえ、もっと複雑ですからね。」
「機動兵器って、あの山に突き刺さってるアレの事?」
「ええ、エルヴズユンデ・・・それがあの機動兵器の名前です。」
ギルティアが、ラーメンを食べながら言う。
「もしかして、あれ、中に乗って動かすの?」
「ええ、そうです・・・まぁ、
もっとも、私の機体は特別製で、私の機体の操縦は別ですが、
基本的な機動兵器の操縦は、複雑です。」
「そっか・・・。」
ハヤテが頷く。
「醤油ラーメンお待ち!」
ハヤテが、ラーメンを取りに行く。
「あ、そうだ。」
椅子に戻ってきたハヤテが、唐突に言う。
「はい?」
「この後暇?少し、この学校の中を案内してやろっか?」
「ああ、確かに、あまり見てまわってはいませんでしたね・・・お願いできますか?」
「うん、任せといてくれ!」
ハヤテが、笑顔で頷いた・・・。
「しかし・・・このラーメン・・・素晴らしい。
あちこちの宇宙、世界を渡り歩いていますが、これだけの品は久しぶりです。」
「そこまで言って頂けるとは、光栄だね。」
クーリーが、笑顔で言う。
「いえ、私はその通りの感想を述べているだけですよ。」
「ははは・・・これは、君の旅の話を今度少し聞いてみたくなったよ。」
「明るい話といえば、今まで旅をしてきた、
宇宙、世界の、ラーメンの品評くらいしかありませんが、
それで宜しければまた今度、少しお話させて頂きますよ。」
ギルティアは、笑顔でそう言った。
「ああ、楽しみにしているよ。」
ギルティアが、ラーメンの代金を支払う。
ハヤテも代金を支払い、売店を出た。
「クーリー先生、それでは、またお会いしましょう。」
ギルティアが、笑顔で頭を下げる。
「ああ、いつでも来てくれ。」
それに対し、クーリーも笑顔で答えた。

一方、その頃、学園の外で、スナミはマインドを追いかけていた。
「待ちなさ~い!!」
マインドは逃げ足が速い。
少しでも気を抜くとすぐに視界の外へと消えてしまう。
既に、一体取り逃がしている。恐らく、学園の中へと逃げたのだろう。
「はぁ・・・はぁ・・・流石に、こう長距離を全力疾走は・・・きついわ。」
スナミが、息を切らす。
マインドは、その隙に学園の中へと逃げていってしまった・・・。

そして、ハヤテの案内でギルティアは校内を見てまわっていた。
「・・・やはり、非常に広いですね・・・。」
ギルティアが周囲を見回しながら呟く。
「うん、僕もたまに迷うよ。」
ハヤテは、そう言って笑った。
「あら?ハヤテじゃない。」
茶髪の少女がハヤテに声を掛ける。
「ああ、アレスタか・・・。」
「昼食は済んだの?」
「うん・・・今はお金に余裕があるしね。」
ハヤテが笑う。
「あら?そちらの人は?」
アレスタが尋ねる。
「お初にお目にかかります。ギルティア=ループリングと申します。」
ギルティアが頭を下げる。
「この人は、スナミが連れてきた人で、
事情があって調べものの為にこの学校の高等部三年に転入してきたんだよ。
・・・今、僕が学校の案内をしてあげてるんだ。」
「成る程・・・。」
アレスタと呼ばれた少女が、ギルティアの方に向き直る。
「私はアレスタ。アレスタ・アルイーと申します。以後、お見知りおきを。」
「ええ、こちらこそ、よろしくお願い致します。
・・・では、私はハヤテさんに学校内を案内して頂いている最中ですので、
これにて失礼させていただきます・・・ごきげんよう。」
「ええ、ごきげんよう、ギルティアさん。」
ギルティアとアレスタが、丁寧に礼をする。
「お、お嬢様だ・・・今のやり取り、空気が違う・・・。」
歩き出したギルティアに続きながら、ハヤテは、そう呟いた。

一方その頃、高等部の方では、ギルティアの事が噂になっていた。
「そういえば、高等部三年に、曰くつきの転校生が来たそうよ?」
こげ茶色の髪の少女が、紫色の髪の少女に言う。
「曰くつき、と言うのは?」
紫色の髪の少女が聞き返す。
「ずっと、大図書室に通い詰めて調べ物をしてるんだって。
フカリちゃんと同じようなタイプかと思ったんだけど・・・。
・・・どうやら、その調べ物の為にこの学校に来たらしいわよ。」
「ふーん・・・で、その娘の魔術の腕は?」
「うーん・・・魔法を使った所は誰も見た事無いみたいだけど・・・。
ただ、白銀の彗星を何倍も強力にしたような物を使うって噂はあるわ。
・・・いつか挑んでみたいわね。」
こげ茶色の髪の少女がニヤリと笑うが、紫色の髪の少女がそれを鼻で笑う。
「フッ・・・もしそれが本当なら、貴女では無理でしょうね。」
「な、何を~!私は今世紀最強の魔法使いよ!!」
「貴女がもし今世紀最強だと言うのなら、
私はこの魔術世界の歴史上最強の魔法使いよ。
そうよ、あの似非伝説の魔法使いなんかより、
私の方がよっぽど強力な魔法使いなのよ!オーホッホッホッホ!!」
紫色の髪の少女が、そう言って高笑いした。
が、次の瞬間だった。
いきなり、正体不明の塊が、紫色の髪の少女に向けて飛来する。
「・・・なっ!?」
その塊が彼女に吸い込まれるようにして消え、
次の瞬間、紫色の髪の少女は倒れた。
「え!?どうしたの、サラ!」
こげ茶色の髪の少女が、慌てる。
しかし、次の瞬間、紫色の髪の少女は再び目を覚ました。
「そう・・・私は、あの似非伝説の魔法使いを、倒さなくてはならないのよ・・・!」
紫色の髪の少女はそう呟くと、走り出した。
「ちょ、何処行くの!?」
こげ茶色の髪の少女が、紫色の髪の少女を追って走り出した。

一方、ギルティアはまだハヤテに案内して貰っていた。
「広すぎて、基本的な場所を巡るだけでもかなりの時間がかかりますね・・・。
昼休みは残り十五分程度、ですか・・・今日はこれくらいで構いませんよ。」
「ありゃ、もうそんな時間だったか・・・。
うん、それじゃ、また空いた時間に案内してあげるよ!」
「ありがとうございます、ハヤテさん。」
ギルティアは、笑顔で頭を下げ、歩き出した。
「・・・さて、僕も教室に戻ろうか・・・。」
ハヤテも、教室の方へと歩き出す。

「ねぇ、ハヤテ君。」
背後から、自らを呼ぶ女性の声が聞こえた。この声には聞き覚えがある。
「え?」
ハヤテが振り向く。
そこには、青紫色の髪の少女が立っていた。
ハヤテより二歳ほど上だろうか。
「ゆ、ユキノさん!?」
「・・・元気そうね。」
ユキノと呼ばれた少女が、そう言って笑う。
「ちょっと、話があるのよ。」
「話?」
「ここじゃ、ちょっとね・・・ついてきて。」
ユキノが歩き出す。ハヤテはそれについていった・・・。

その頃、スナミは学校の入り口を強行突破し、学校内へと入ってきていた。
「学校内に逃げたマインドは二つ・・・騒ぎが起こる前に片付けられれば良いのだけれど・・・。」
スナミはそう呟くと、走り出した・・・。

続く

地平の旅人クロス影貴一座 第三話:マインド


第三話:マインド

校内で、ギルティアがクーリーから、教師の紹介を受けていた。
「という訳で、ギルティアちゃんの転入するクラスの教師を前もって紹介しておくよ。」
ギルティアの前には、分厚い鎧の巨人が立っている。
「・・・この方、ですか?」
「うーん・・・中身は僕自身分からないんだなこれが。」
クーリーが苦笑する。
「私の名はアイン・ディーダロス。
・・・事情は校長とクーリー君から聞いているよ。
出来る限りバックアップをするつもりだ、よろしく頼む。」
「ギルティア=ループリングです。
・・・よろしくお願いします、アイン先生。」
ギルティアが、深く頭を下げる。
「・・・うむ、礼儀正しくてよろしい。」
アインは、そう言って頷いた・・・。
そして、同級生に軽く自己紹介を済ませてから、ギルティアは早速大図書室に向かった。

ギルティアの目の前に広がっていたのは、本の山・・・
・・・いや、本の海と言っても良いかも知れない、それだけの量の書庫だった。
「・・・これが、大図書室・・・。」
ギルティアが、本の量を見て呟く。
「ふふ・・・お主がギルティアかえ?」
上の方から声がした。
「・・・?」
ギルティアが、上を見る。
本棚の上に、十二歳ほどの少女が座っている。
「・・・あなたは?」
「わらわはオンリ・アライア・・・この大図書室の司書をしておる。」
オンリを名乗った少女は、よっ、というかけ声と共に本棚から飛び降りて着地する。
「・・・くーりんと校長から事情は聞いておる。」
「ギルティア=ループリングと申します。どうぞ、よろしくお願いします。」
ギルティアが、頭を下げる。
「礼儀正しさの事も聞いておったが・・・どうやら、聞いたとおりの娘のようじゃな。」
オンリは、そう言って笑った。
「そういえば、図書室の大きさにしては、随分と人は少ないですが・・・。」
ギルティアが、周囲を見回しながら呟く。
確かに、周囲の人間もまばらで、人は少ない。
「・・・通常、この時間帯は授業中じゃ。
それに、それ以外の時間でも、本当に魔法が好きか、
あるいは課題提出に追われておる輩以外には、ここに来る奴はそうおらぬよ。
高等部三年の課題でも、ここの蔵書の表層部分だけで事足りてしまうのじゃ・・・。
であれば、わざわざここに来ないでも情報収集は出来る・・・ここに来る物好きはそう多くは・・・。」
その言葉を、図書室の扉を開ける音が遮る。
「オンリ・・・今日も図書室は開いてるわよね・・・?」
美しい黒い前髪で目が隠れた少女が、オンリの方に歩いてくる。
「おお、フカリか・・・勿論じゃ、わらわが生きている限り、ここは年中無休じゃよ。」
「フフ・・・なら、少なくとも当分は大丈夫ね・・・。
オンリには、死神が怯えて近寄らないもの・・・。
・・・今日も本を借りてくわよ・・・ウフフフフフフフフ・・・。」
フカリと呼ばれた少女はそう言うと、不気味な笑いを浮かべる。
「彼女はフカリ・サイメー・・・この図書室の数少ない常連の一人じゃよ。」
「・・・あなたは?」
フカリが、ギルティアに尋ねる。
「私は、ギルティア=ループリングと申します。
・・・今日、こちらの高等部三年に転入させて頂きました。」
「へぇ・・・けど、転入して直ぐにここに来るなんて・・・変わってるわね・・・。」
フカリの言葉に、ギルティアが苦笑する。
「まぁ、事情があっての転入ですからね・・・正確にはここで調べ物をするのが目的です。」
「ここの蔵書は凄いから・・・それは分かるわ・・・。」
フカリが頷く。
「さて・・・それじゃ、私は本を見てくるから・・・。」
フカリは、そう言って歩き出した。
「・・・私も行きましょうかね・・・取り敢えずは・・・
・・・あの、オンリさん、転移関連の魔術書はどの辺りに?」
「うむ、第三階層の横列四十二列目、縦列三十五列目じゃ。」
「了解です。」
ギルティアが、言われた場所へと歩き出す。
しかし、何と大きい図書室か。
歩いてもなかなかたどり着けない。しかも、階段が遠く、移動が非常に面倒だ。
「・・・遠いですね。成る程、これは調べるのが大変なのであまり人が来ない訳です・・・。」
ギルティアが、目的の場所にたどり着いて調べ始めたのは、その二十分ほど後であった・・・。

ギルティアが、転移関連の魔術書を調べて分かった事は、
少なくとも、そこに記述されているレベルのモノでは、
境界空間に影響を及ぼし、エルヴズユンデをこの場所に墜落させる事など、
絶対に不可能である、という事だけだった。
人間を転移で移動させる事は可能だが、
武器を戦闘中にリアルタイムで転送する、
ギルティアのような芸当は、まだ技術として確立されていない。
「ますます、不可解ですね・・・」
ギルティアが、暫く考える。
「何か手がかりはあったかえ?」
頭上からの声に、ギルティアがビクッと上を見る。
オンリが、また本棚の上に座っていた。
「実はの、この上を伝うのが一番早いのじゃ。」
「は?」
ギルティアが首を傾げる。
「お主、ここに登れるかえ?」
「ええ。」
ギルティアが、オンリの横に跳ぶ。
すると、オンリが言った事の意味が理解できた。
本棚の上の部分が、通路になっている。
また、所々に梯子があるため、上の階層にも楽に移動できる。
「成る程・・・こういう事ですか・・・。」
ギルティアが頷く。
「まぁ、ある程度であればわらわもここの本の事は把握しておる。
必要があれば遠慮なく聞くがいいさ。」
「・・・ありがとうございます。」
ギルティアは、笑顔で頭を下げた。

そして、その日の夕方・・・。
フーレント宅で、ギルティアは夕食を食べていた。
「何か手がかりは掴めたの?」
スナミが尋ねる。
「いえ・・・というより、一つだけ分かったのは、この世界の一般の魔術で、
私をこの世界に引きずり込む事は出来ない、という事だけですね。」
ギルティアが、そう言って苦笑した。
「そういえば、ギルティアちゃんは魔法は使えるの?」
タクセリアが尋ねる。
「いえ・・・全く使えませんよ。
使ってみようと試みましたが、技術云々の問題では無いようです。
・・・魔法というものとは相性が悪いようですね、私は。」
ギルティアは、そう言って苦笑した。

会話をしながら、食事を続ける。
「・・・?」
ギルティアは、微かに聞こえる物音で、外の異変に気付いた。
「・・・どうしたの?」
「爆発音・・・?」
ギルティアが外に出る。
路地の彼方で騒ぎが起きているようだ。
爆発音が何度も響いている。
「・・・どうやら、フィスタリアちゃんの工房の辺りね・・・。」
スナミが呟く。
「フィスタリアさん?」
ギルティアが尋ねる。
「フィスタリア・リタースちゃん・・・錬金術師の卵って所ね・・・。
・・・行ってみましょう!」
スナミが爆発音の方へと向かう。
「了解です!」
「オッケー!」
ギルティアとタクセリアがそれに続いた。

そこでは、ラスサとミラサ、そして、青紫色の髪の少女が、
水色の髪の男一人を相手に全力で攻撃していた。
「きゃー!嫌ー!!来ないで変態ー!!」
ミラサが、光線を放つ魔法を乱射する。
「キメシテ!今回は本気で見損ないました!
まさか三人全員を同時に口説こうとするなんて!!」
青紫色の髪の少女が、大量の爆弾を投げつける。
「この、女の敵!消えなさいッ・・・レイテルカース!!」
ラスサが、光線を放つ魔法を的確な場所に叩き込む。
しかし、キメシテと呼ばれた水色の髪の男は、
その攻撃全てを巧みな身のこなしと短剣捌きで防ぎきっている。
「美しい女性を口説いて何が悪いんだ!!」
キメシテが叫ぶと、三人揃って反論する。
「「「悪いわぁぁぁぁぁ!!!!」」」
三人の攻撃が、同時にキメシテに決まる。
しかし、その爆風を突き破ってキメシテは突進してきた。
「アイ!ラヴ!ガァァァルズゥゥ!!!
君たちがぁぁぁ!!欲すぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!」
その次の瞬間、キメシテと三人の間に、割って入る人影があった。
「何やら良く分かりませんが・・・事態の収拾に力を貸します!!」
ギルティアだった。
途中でスナミを追い越して先に場所に到着したのだ。
「おお!!また、美しい女性が!!」
「・・・あの、何ですか?これ。」
ギルティアの問いに、三人は同時に答えた。
「「「変態です。」」」
「・・・変態、ですか・・・。」
ギルティアが、苦笑する。
「僕の!ものに!ならないか!!」
キメシテが叫ぶ。
「・・・ああ、確かに。」
ギルティアが、頷く。
「・・・お断りですね。」
突進してくるキメシテを、ギルティアは投げ飛ばす。
しかし、キメシテは空中で姿勢を整えて着地する。
「・・・しかし・・・。」
ギルティアが静かに呟く。
「あの身のこなし、ただの変態ではありませんね・・・彼は、強い・・・!」
ギルティアが踏み込む。
短剣の一振りを回避し、拳を叩き込む。
が、キメシテはそれを回避し、もう一振り短剣を振る。
それを、ギルティアは後方宙返りで退いて回避する。
「・・・ふふ、人間にしては悪くありません・・・。」
ギルティアは、そう言ってニヤリと笑った。
「しかし・・・変態はいただけませんね・・・!」
ギルティアが、もう一度一歩踏み込もうとする。
「ギルティアちゃん!
それに、ミラサとラスサ、フィスタリアちゃんまで・・・これは一体!?」
その直後、スナミとタクセリアが到着した。
「「「変態です。」」」
三人が、再び同時に言う。
「だそうです。」
更に続けてのギルティアの発言に、
スナミとタクセリアが二人そろって答える。
「「納得。」」
「いや、納得・・・されても・・・。」
ギルティアが冷や汗をかき、苦笑する。
「けど・・・この『空気』・・・もしかして・・・。」
スナミが呟く。
「・・・空気・・・?」
ギルティアに、一瞬の隙が出来る。
「隙あり!!」
キメシテが一歩踏み込む。
「っ!」
ギルティアが、咄嗟にキメシテに、加減なしで蹴り上げを叩き込んだ。
その一撃は、キメシテの、蹴り上げられてはならない場所を、的確に捉えていた・・・。
「ぎゃああああああああああああああああああああー!!!!!」
キメシテの絶叫が、夕暮れの町に木霊した。
「・・・ご、ごめんなさい!!」
ギルティアが、思わず謝る。
しかし、良く考えてみると、変態相手に気にする事は無い。
ギルティアは、相手に隙が出来た、と考える事にした。
「・・・スナミさん、何か心当たりでも?」
キメシテがのた打ち回っている間に、スナミにギルティアが尋ねる。
「・・・もしかすると、この人・・・操られてるかもしれない。」
「ええっ・・・!?」
ギルティアが、再びキメシテの事を心配する。
「・・・詳しくは後!殺しちゃわない威力の攻撃で、この人を気絶させるわよ!!」
スナミの指先に光が集まる。
「行くよ、皆!」
タクセリアも、自らの剣を構える。
「はい!」
紫色の髪の少女も、杖を構えた。
「任せて!」
「行っくよ~!!」
ラスサとミラサも、続けて杖を構える。
「・・・私だけ、これでは格好がつきませんね・・・。」
ギルティアが、静かに呟く。
「左腕、クロー展開・・・レーザー、出力を非致死出力に調整・・・。」
ギルティアの左腕が、まるで魔物の爪のような姿に変化する。
「これで良し、と・・・行きます!!」
そして、その爪の中心に光が集まる。

男は、未だにのた打ち回っていた。
「バキューン!!」
スナミの指先から、ハートの形をした弾丸が放たれる。
「三神竜剣!!」
タクセリアが剣を振るうと、竜の形状をしたエネルギーの塊が、
凄まじい勢いでキメシテに向けて襲い掛かる。
「「ダブルレイテル!!」」
ラスサとミラサが同時に放った光の魔法が、
一つになってキメシテに向けて飛来する。
「光と風の刃!!」
まるで木の葉のような緑色の光の渦が、キメシテを飲み込もうと迫る。
「クローバーストッ!!」
ギルティアの左腕の爪に集まった光が、キメシテに向けて放たれた。
それらが全て同時に、キメシテに直撃する。
一際大きい爆発が起こった。
「・・・・・・。」
ギルティアが、苦笑する。
「これ、死んだんじゃない?」
タクセリアが、苦笑しながらそれに答える。
「加減はしましたから・・・多分生きてる・・・筈。」
紫色の髪の少女も、苦笑していた。
その場にいた全員が、苦笑していた。
それだけ大きな爆発だったのだ。
爆風が収まる。
果たして、キメシテは生きているのか・・・。
・・・いや、キメシテは原形を留めてそこに存在しているのか。
キメシテは、そこに倒れていた。
どうやら、死んでもいないようだ。
「・・・良かった・・・。」
ギルティアが、安堵の息をつく。
キメシテから、半透明の塊が出てくる。
「くーっ・・・流石に六人は無理か・・・。」
塊が呟く。
「やっぱりマインド!待ちなさい!!」
スナミが叫んだ次の瞬間、塊は、倒れていた筈のキメシテに掴まれていた。
「・・・おい。」
キメシテが、塊に言う。
「お前が誰だかは知らんが・・・お前の・・・。」
更に、キメシテが続ける。
「口説きのテクニックを俺に教えろォォォォォォォォォォォォ!!!!!」
キメシテの叫びで、塊とキメシテ以外の、その場にいた全員が、凍りついた。
「・・・は?」
塊も、何を言われたのか一瞬考える。
「お前に乗っ取られて薄れていく意識の中、しっかり聞いてたぜ!!
お前の口説きのテクニック、あの時フィスが本気で照れてただろう!!
直ぐにダイブするだけが能じゃないってのを思い知ったぜ!!良いから教えろ!!!」
「お前・・・僕を許すというのか・・・?」
「女好きに悪い奴ぁ・・・いる所にはいるがお前にはそういう気がしねえ!!」
キメシテが、豪快に笑った。
「・・・お、おう!ぼ、僕の名はファンテル!
せっかくだから、お前の短剣に宿らせてもらうよ!」
塊は、そう言うと、キメシテの短剣の中に吸い込まれていった・・・。
「・・・キメシテ・・・。」
紫髪の少女が、爆弾を構える。
「いい加減に、しなっさぁぁぁぁぁぁい!!!」
夥しい量の爆弾が、キメシテへと投げつけられる。
良く見ると、紫髪の少女は、半泣きだった。
「ひいいいいいいいいいいいいいい!!!」
キメシテが必死に逃げる。
紫髪の少女が、それを全力で追いかける。
「一体、何なのですか?」
それを見ながら、ギルティアがスナミに尋ねる。
「あの紫髪の子がフィスタリアよ。
・・・もう一人の人は、名前は分からなかったけどフィスの店の常連。
けど、彼女の言い方からして、キメシテって名前みたいね・・・。」
「ふむ・・・では、先程の『マインド』というのは?」
ギルティアが、再び尋ねる。
「うーん、まだ私達も本当に詳しくは知らないんだけど・・・。
人を操る、幽霊みたいな奴・・・良く騒ぎを起こすのよ。」
「成る程・・・私達のいた場所にいた『異形』と、性質は違えど、
脅威という意味では似たような物ですか・・・。」
ギルティアが頷く。
爆発音が、二人の会話を遮る。
「・・・あの・・・その辺にしておいた方が・・・。」
これ以上は危険だと思ったギルティアが、止めに入ろうとする。
「お?俺を庇ってくれるの?ありがと~!!」
キメシテが、ギルティアに頭から飛び込んでくる。
「・・・!」
ギルティアが、咄嗟に左腕の爪で、キメシテの頭を掴む。
そして、そのままキメシテを地面に叩きつけた。
「・・・良いのは、あなたの方ですね・・・心配して損をしました。」
ギルティアは、ため息をついた。
蹴ってはならない部分を蹴り上げてから、
キメシテの事を本気で心配していたが、
この分では心配はいらないようだった。
「あ、今回は危ない所をどうもありがとうございました!
私、フィスタリア・リタースと言います。」
フィスタリアが、ギルティアに頭を下げる。
「・・・で、ここで倒れている、マインドと全く変わらないほど危険な変態が・・・。」
フィスタリアが、キメシテを踏み躙る。
「キ、キメシテ・・・キメシテ・スーティ・・・。」
踏まれながらも、キメシテが名乗る。
「私は、ギルティア=ループリングと申します。
ある事情があって魔法学校に通うことになりました。」
ギルティアが名乗り、頭を下げる。
そして、キメシテが起き上がる。
「しっかし・・・胸大きい奴が多いなぁ・・・。」
キメシテの言葉に、その場にいたミラサ以外の全員が胸を押さえる。
「・・・そこまで警戒しなくてもいいだろうに・・・。」
キメシテが苦笑する。

日は、すっかり落ちていた・・・。

続く

地平の旅人クロス影貴一座 第二話:入学?


第二話:入学?

ギルティアが、食材の買出しに出かけている間に、
タクセリアとスナミは、相談していた。
「ギルティアちゃんのあの働きぶり・・・
このままだと私のする事が無くなっちゃう・・・困ったわ。」
「あたしは学校の警備があるし~。」
タクセリアの言葉に、スナミが思いつく。
「・・・それよ!」
「?」
「ギルティアちゃんには、学校に行ってもらおう!」
スナミの言葉に、タクセリアが頷く。
「あー、それ良いかもね!」
「そうすれば、私の仕事も無くならないしね・・・。
それに、彼女が元の場所に戻る手がかりも、こんな場所にいたら探しようが無いし。
あそこの大図書室の蔵書なら、手がかりの一つや二つくらい埋まってるでしょ。」
「・・・意外と考えてるね。」
タクセリアの言葉に、スナミが苦笑する。
「・・・それ、どういう意味よ。」
「さぁね・・・けど、そうなれば、事情はくーりんから校長にも伝えてもらわないとね。」
「うん。」
彼女達が会話していると、入り口の扉が開いた。
「ただいま、帰りました!」
食材を両手に抱え、ギルティアが家の中に入ってきた・・・。
「・・・相変わらず、荷物持ちいらずね・・・。」
唖然としてスナミが言う。
「・・・ふふ、この程度なら問題ありませんよ。」
ギルティアが、笑顔で頷く。
「あ、それでさ・・・。」
タクセリアが、先程まで二人で話していた事をギルティアに伝える。
「・・・私が、あの学校に?」
ギルティアが再度尋ねる。
「うん、多分あの学校の蔵書の量なら、何か手がかりくらいは掴めると思うし。
いちいち部外者として本を調べるよりは、中に入って調べる方が手間はかからないでしょ?
・・・それに、それなら私の仕事も無くならないで済むしね。」
スナミの言葉に、思わずギルティアは笑ってしまう。
「成る程・・・そういう事ですか・・・分かりました。」
ギルティアは、誰にも聞こえないように続ける。
「・・・この私が、学校、ですか・・・。
しかし、一刻も早く元の場所に戻るためにも・・・私の使命の為にも頑張らねば。」
「ん?何か言った?」
「いえいえ、学校というのは・・・初めての経験ですから。」
ギルティアは、思わず笑顔で答える。
「成る程・・・初めてなのね。
・・・まぁ、授業とかよりもその蔵書を調べる事の方を優先して良いから。」
スナミが、苦笑しながら言う。
「ええ、普通の授業を受けたりなどの学生生活は、多分、私には永劫に実現不能ですから。」
ギルティアは、そう言って笑った。
しかし、その笑顔には、一抹の寂しさが混じっていた。
「さて、そうと決まれば・・・。」
スナミが、学校の方へと歩き出した。
「?」
「・・・ああ、少し、くーりんに連絡をね。」
そう言って、スナミは外に出て行った・・・。
「・・・そう言えば、ギルティアちゃんって、ここに来るまでにどんな事をしてたの?
旅をしてたのは聞いてるけど・・・。」
タクセリアが、ギルティアに尋ねる。
「・・・ええ、ならば、少しだけ話をしましょうか・・・。」
ギルティアは、世界の化身『鍵』である。
しかし、その世界の住人に拒絶され、封印されたという過去を持っていた。
長い長い封印の後、彼女の生まれた世界は、彼女が封印された頃よりも繁栄していた。
だから、自らの使命を、そう、世界を護るという使命を果たす為に、旅を続けている。
「・・・まぁ、という訳で、次の宇宙に行く途中で、こうなったという訳です。」
「結構、重い話ね・・・。」
「あまり面白い話ではありませんでしたね、申し訳ありません。」
ギルティアは、笑顔でそう言った。
「・・・そう言えば、すなみんも確か、
昔、五人の伝説の魔法使いに数えられていたけど・・・。」
「ほう・・・伝説の、ですか・・・。」
ギルティアが興味深そうに相槌を打つ。
「・・・確か、要らない子呼ばわりされて、残り四人に封印されたって。」
「・・・!」
「封印されてたのを、この家の人達が解除したみたいだけど・・・。」
「スナミさんが、まさかそのような目に遭っておられたとは・・・。」
ギルティアが、静かに頷く。

「あれ?そう言えば、気になったんだけど・・・。」
タクセリアが話を切り出す。
「何ですか?」
「あたしが幽霊なのに何も突っ込まないよね?」
「ああ、その事ですか・・・。」
ギルティアは、普段主に相手をしている『異形』の事を話し始めた。
強い欲望を持った人間が、ある空間と接触する事で誕生する化け物・・・。
そういうものと戦ってきたギルティアだからこそ、幽霊程度では驚かないのだ。
「成る程ね・・・もっと危険な物と戦ってきてるから、敵意が無いなら気にしない、と。」
「まぁ、そういう事ですね・・・悪でないのなら、相手がどんな方でも全く問題ありません。」
ギルティアは、そう言って笑った。
「ただいま~!」
スナミが帰ってくる。
「お帰りなさい。」
「くーりんが、明日の午前中に魔法学校の中等部、職員室の方に来て欲しいって。」
「了解です。」
ギルティアが、笑顔で頷いた・・・。

そして、次の日・・・。
ギルティアは、学校の入り口で足止めを喰らっていた。
「私は、ここの教師のクーリー・ローズレッドさんから呼ばれているのですが・・・。」
「しかし・・・直接の紹介無しで部外者を入れる訳には・・・。」
そう、入り口の前の守衛に、止められていたのだ。
何度もこのやり取りを繰り返した。
「やれやれ・・・このままでは埒が明きませんか・・・。
・・・どうしても、通して頂けませんか?」
「どんな事情があろうとも、部外者は立ち入り禁止です!」
「そうですか・・・分かりました。」
ギルティアは、静かに頷いた。
そして、その次の瞬間ギルティアは一歩を踏み込む。
「・・・ならッ!!」
守衛に、見事な正拳が叩き込まれる。
「申し訳ありませんが・・・!」
更に、それに続けて肘をボディに叩き込む。
「力ずくで行かせて頂きます・・・!!」
そして、そのまま守衛の男を投げ飛ばす。
相手は、あまりに素早い連続攻撃に、
自分に何が起こったのかまだ理解できていなかった。
「・・・後遺症が残らないように、急所は外しました。」
ギルティアは、そう言って校内へと歩いていった・・・。
そして、守衛は、ひっくり返ったままで、自分の置かれた状況を理解する。
「あー・・・またやられた・・・。」
しかし、過去にあった事を思い出し、彼は笑った。
「ま、あの時よりもはマシか・・・。」
彼は以前、スナミに色仕掛けを仕掛けられた挙句、
蹴り上げられてはならない部分を蹴り上げられて、
酷い目に遭った事があったのだった・・・。

そして、クーリーに言われた職員室を何とか見つけ出し、そこに入る。
「やあ、良く来たね。」
クーリーがギルティアを出迎える。
「やはり、非常に広いですね・・・危うく迷いかけました。」
「逆に、迷わずにここまでこれる事が凄いよ。」
クーリーはそう言って笑った。
「それと、守衛の方を倒してきましたが、よろしかったでしょうか?」
「あー・・・またか。」
クーリーは、そう言って笑った。
「また?」
「以前、すなみんがこの学校に来た時も、守衛を倒して入って来ていたんでね。」
クーリーは、苦笑しながらそう言った。
「けど、まぁ・・・説明しても駄目なら、止むを得ないか。」
クーリーは、さて、と続ける。
「本題だけど、校長先生に掛け合ったところ、
高等部三年として臨時入学を許可、蔵書の調査を認める、との事だった。」
「それは・・・!」
ギルティアが喜ぶ。
「うん、これでここの蔵書を調べる許可が出た、という訳だ・・・。」
「・・・これで何か手がかりが掴めると良いのですが・・・。」
「あ、けど条件があるって。」
クーリーの言葉に、ギルティアが首を傾げる。
「条件、とは?」
「一冊でいいので、外の世界に関する記述を書物の形で残しておいて欲しいそうだよ。
仮にも生徒として迎え入れた以上、それ相応の何かを完成させて欲しいってさ。」
「・・・ええ、分かりました。」
ギルティアは、笑顔で頷いた。

そして、次の日・・・。
「さて、一刻も早く異形討伐に戻るためにも・・・
・・・一刻も早く脱出の手段を見つけなくては!!」
ギルティアは、魔法学校の制服を着て、
フーレント家の四人と共に学校へと向かっていた。
「結構似合ってますね。」
隣を歩いていたラスサが言う。
「ありがとうございます、ラスサさん。」
「しっかし・・・本当に礼儀正しいなぁ・・・。
爪の垢をタクセリアとスナミに煎じて飲ませたいよ、全く・・・。」
ハヤテが、そう言って笑う。
「いえ・・・私は逆にあのように自由である事こそ、
人間らしい、と思いますよ・・・。」
ギルティアは、そう言って笑って返した。

学校の門は、すぐそこに見えていた・・・。

続く

地平の旅人クロス影貴一座 第一話:降ってきた娘

果てなど知れぬ、世界の連なり

しかし、それを形作っているのは、小さな出会いと別れの一つ一つだ。

これは、その一つ・・・なのかもしれない。


                  地平の旅人 クロス 影貴一座
                      ―旅の途中で―

第一話:降ってきた娘

白いドレスを着用した、白髪交じりの黒髪の少女が、
機動兵器のコクピットでため息をついている。
「・・・一体、何だというのでしょうか・・・。」
彼女は、そう言うしかなかった。
彼女の愛機は、山に思い切り突き刺さっている。
「何故、こんな事に・・・。」
目の前に突然発生した光。
それだけが、しっかりと記憶に残っている。
少女が、記憶の糸を手繰り寄せる。

数時間前、彼女と、彼女の乗った機動兵器は、
宇宙、世界の間にある空間、境界空間を飛翔していた。
機動兵器の性能は高く、彼女自身の技量もあり、
凄まじい速度で境界空間を駆けていた。
しかし、少しすると、異常が発生し始める。
「空間が揺らいでいる・・・?」
少女が、状況の変化に気付く。
が、その時には既に、目の前に、突然発生した光があった。
その光と機動兵器が衝突し、
気がついたら機動兵器は何処かの山に突き刺さっていた。

少女は、はっきりした記憶に頷き、改めてため息をつく。
「まずは、外に出てみましょうか・・・。」
少女は、機動兵器の胸部のコクピットから、外に出て、今いる場所を確認した・・・。

山の麓の方に、市街地が見える。
技術レベルは、中世の西洋、といった所だろうか。
そして、巨大な学園状の建造物が、その市街地の中央に建っていた。
「見ない場所ですね・・・現在位置を確認してみなくては。」
少女は、再び機動兵器の胸部の中に戻っていった・・・。

一方その頃・・・。
「・・・え!?私がぁ!?」
水色の髪が美しい女性が、茶髪の男の言葉に、驚きの声を上げていた。
「ああ、流石に生徒を見に行かせるのは危険だろう?
それなら、教師の僕と、伝説の魔女であるスナミ、君が行くのが一番安全だと思うんだが・・・。」
「そ、それは構わないけど・・・タクセリア、貴女もついてきなさい。」
スナミと呼ばれた水色の髪の女性が名を呼ぶと、
彼女の後ろの家から、下半身が透明な少女が出てきた。
間違いない、幽霊である。
「えー?あたしも行くの?」
「何があるか分からないしね・・・あの、いきなり落ちてきた大きな人型の鉄の塊・・・。
・・・流石に、子供達を巻き込むわけには行かないわ。」
スナミが、町の向こうの山に突き刺さった人型の鉄塊を指差す。
「あー・・・まぁ、確かに、あたしが一緒なら多少安全性は増すかもね・・・。」
タクセリアと呼ばれた幽霊の少女は、そう言って頷いた。
「三人の方がいいでしょう?クーリー。」
クーリーと呼ばれた茶髪の男は、そう言われて頷く。
「そうだね・・・しかし、僕もあんな物は見たことは無い・・・一体、何だろう・・・。」
「空の彼方からの侵略者・・・だったりしてー。」
スナミが、そう言って笑うが、タクセリアもクーリーも笑えない。
「・・・洒落にならないよ、それ。」
タクセリアの突っ込みに、スナミが苦笑しながら頷く。
「・・・うん。」
三人は、鉄の塊が落ちた山の方へと歩き始めた・・・。

少女は、機動兵器のコクピットで現在の状況の詳細を確認していた。
「現在位置、データに無し・・・どこかに飛ばされた、とでも?」
更に、情報を引き出す。
「境界空間突入機能にも異常が発生している・・・。
機体への損傷が無い以上、私の機体で故障はありえない・・・。
これは、何らかの外的要因が絡んでいるようですね・・・。」
少女は静かに呟くと、再び機動兵器の外に出て、突き刺さった機動兵器の背中に座る。
しかし、それにしても、忌々しいほどに良い天気だ。
「・・・他人の不幸は蜜の味、とは良く言ったものですね・・・。」
少女が、空を見上げてため息をつく。
「さて、どうしたものですか、ね・・・。」
少女は、そのまま機動兵器の背の上でうとうとと眠り始めた・・・。

一方、市街地から出発した三人は、山登りの最中だった。
「しかし、本当に今日は良い天気ね~。」
スナミが空を見て言う。
「ええ、どうせこんな天気に山に来るなら、ピクニックが良いわ・・・。」
タクセリアもそれに賛同し、頷く。
「確かに・・・この先に何が待っているか分からないと思うと、
良い天気ですらも煩わしく思えるね。」
クーリーが、そう言って苦笑する。
「・・・そろそろ、近いよ。」
クーリーの言葉に、二人が気を引き締める。
スナミが杖を、タクセリアが、剣を構える。

目の前に、突き刺さった巨大な人型の鉄塊が姿を現した。
「大きいわね~・・・。」
スナミが見上げて呟く。
「動き出したり、しないよね・・・?」
タクセリアが、周囲を見回し、動く気配が無いのでため息をつく。
「うん・・・取り敢えずは大丈夫そうね・・・。」
「しかし・・・構造にしろ、
僕ですら見た事も無い技術で作られてるよ、これは・・・。」
クーリーが、呟く。
ふと、スナミが何処からか聞こえる寝息に気付く。
「・・・寝息?」
耳を澄ますが、確かに聞こえる。
「くーりん、何か寝息が聞こえない?」
クーリーが、その問いで耳を澄ます。
確かに、聞こえている、
人型の鉄塊の丁度背中辺りだ。
「・・・登ってみよう。」
三人が鉄塊の背中によじ登る。
「こんな服で登るのは、ちょっときついわ・・・。」
スナミが、ため息をつく。
確かに、彼女の服装・・・かなりタイトなミニスカートで、よじ登るのは大変だろう。
「だから、動きやすい服装の方が良いって何時も言ってるでしょうに・・・。」
浮遊移動で、らくらく登っているタクセリアが呟く。
鉄塊の背中では、白いドレスを着用した、
白髪交じりの黒髪の少女が、可愛らしい寝息を立てていた・・・。
年齢的には、十八歳前後だろうか。
「・・・すぅ・・・すぅ・・・。」
「私よりも動きにくそうな格好じゃない?」
スナミが、タクセリアに言う。
「うーん・・・そうかも・・・。」
「あの格好で、良くここに登れたわね・・・。」
スナミの言葉に、クーリーが思わず突っ込む。
「突っ込みどころはそこじゃないと思うよ・・・。」
「まぁ、そうかもね・・・あのー・・・。」
スナミが声を掛ける。
少女が、ビクッと飛び起きる。
「は、っ・・・!?わ、わた、私!?
・・・この私が居眠りとは・・・不覚です。」
眠っていた事にも気付いていなかったのだろう。
起きて早々大きなリアクションを取る。
「・・・と、失礼・・・お見苦しいところをお見せしてしまいましたね。」
少女が落ち着きを取り戻し、苦笑しながらお辞儀する。
「あの、貴女は?」
クーリーが尋ねる。
「・・・私は、ギルティア・・・ギルティア=ループリングと申します。」
「ギルティア・・・さん、ですか。」
クーリーが名前を復唱する。
「ギルティア、で良いですよ・・・。
しかし、ここは一体何処なのです?」
ギルティアと名乗った少女が尋ねる。
「魔法学校オリジン・マイスター・スクールの、裏山だよ。」
タクセリアが答える。
「魔法学校・・・?」
ギルティアは、聞き覚えが無いらしく、少し考える。
「・・・空から降ってきたのは、覚えてる?」
タクセリアが尋ねる。
「空から・・・そこの記憶はありませんが、
少なくとも正体不明の光に突っ込んでしまったのは覚えています。」
「正体不明の光・・・?」
「ええ・・・それに突っ込み、気がついたらここにいました。」
ギルティアが、ため息をつく。
「もしかして、あなたは、こことは違う世界とか・・・そういう所から来たの?」
スナミが尋ねる。
「・・・常人にとっては信じ難い事を、サラッと言いますね・・・あなたは。」
ギルティアが苦笑し、頷く。
「しかし、その通りです・・・私は、この機動兵器エルヴズユンデで、
世界、宇宙の間に広がっている空間・・・境界空間を旅していました。」
「・・・境界空間・・・。」
クーリーが、それに更に言葉を続ける。
「突き刺さったこれは、そこに出ることが出来ると?」
「ええ・・・しかし、ここに落下してからすぐに帰ろうとしたのですが、
何故か境界空間への道を開くことが出来ず・・・途方に暮れていたのです。」
「で、あまりに良い天気だったので、ついうとうとしてた、と。」
スナミが笑いながら言う。
「・・・え、ええ。」
ギルティアが、赤くなりながら頷く。
ギルティアは小さい声で、不覚です、という言葉を何度も呟いていた・・・。
「と、自己紹介がまだだったね、僕はクーリー、クーリー・ローズレッド。
・・・皆からはくーりんくーりん言われているがね・・・。
・・・一応、魔法学校の教師をしている。」
「私はスナミ・レーマリー。
一応、伝説の魔法使いって肩書きを持ってる魔法使いよ。」
「あたしはタクセリア・ヒストレート・・・幽れ・・・」
「皆さん、ご丁寧にどうもありがとうございます。」
ギルティアが、頭を下げる。
「あの・・・幽れ・・・。」
「立ち話もなんだし、魔法学校の食堂で話そうか。」
クーリーの言葉に、スナミ、ギルティアも賛成する。
「幽・・・」
「それじゃ、出発~!!」
スナミが歩き出す。
「エルヴズユンデは、必要があれば転送できますし、
あのままで大丈夫でしょう・・・。」
ギルティアは、静かに呟いた・・・。
「・・・・・・。」
タクセリアがその後、食堂につくまで無言だったのは、言うまでも無い。

そして、食堂・・・。
「本当は関係者以外立ち入り禁止だけど・・・まぁ、僕がいるから問題ないね。」
「随分と大きい学校ですね・・・。」
ギルティアが周囲を見回す。
「今は授業中だし、あまり人はいないと思う。
・・・昼になると食堂はかなり込むよ。」
「でしょうね・・・。」
「ねーねー、ギルティア。」
タクセリアがギルティアに言う。
「はい?」
「ギルティアって、行く宛てあるの?」
「いえ・・・しかし、エルヴズユンデに、
旅に必要な道具は積んでありますので、生活は可能です。」
ギルティアが答えると、タクセリアは続けた。
「・・・良い場所あるんだけど。」
「・・・と、言うと?」
ギルティアが尋ねる。
「それってまさか・・・。」
そのやり取りに、スナミはオチを理解した・・・。

そして・・・。

「やっぱり・・・。」
スナミは、静かに呟いた。
それは、スナミとタクセリアが居候していた、フーレント家だった。
今、スナミの目の前では、ギルティアが物凄い勢いで家事をこなしている。
「しかし・・・凄い手際・・・あたし達の仕事が無くなっちゃったよ。」
タクセリアが呟く。
「・・・作業完了!他に何か、私に手伝える事はありますか!?」
ギルティアの問いに、二人は、ただただ苦笑するだけだった・・・。

暫くすると、家の本来の主である、フーレント家の四人の子供達が戻ってきた。
タクセリアとスナミが事情を説明する。
「と言う訳で、唐突だけど今日から暫くの間居候する事になった・・・」
「・・・ギルティア=ループリングと申します。
短い間になると思いますが、皆さん、どうぞよろしくお願い致します。」
ギルティアは、笑顔で頭を下げた。
「これはこれはご丁寧に・・・あたしは、フーレント家長女、ラスサ・フーレント。
・・・よろしく、ギルティアさん。」
クリーム色の髪の少女が、ギルティアに答える。
「同じく、ミラサ・フーレントです!よろしく!」
ラスサをそのまま幼くしたような見た目の少女が、続けて頭を下げる。
「よろしくお願いします、ラスサさん、ミラサさん。」
「さて、次は僕の番かな?僕はフーレント家長男、ハヤテ・フーレント!よろしく!」
明るい水色の髪の少年が親指を立てる。
「同じくその弟のリクト・フーレント!よろしく、ギルティアさん!」
青色の髪をした少年が頭を下げる。
「ハヤテさんに、リクトさんですね、よろしくお願いします。」
ギルティアは、もう一度深々と頭を下げる。
「しっかし、誰かさん達と違って随分と礼儀正しいなぁ・・・。」
ハヤテが言う。
「それって・・・」
「誰の事かな~?」
タクセリアとスナミが笑顔で言う。
「そう聞くって事は自覚があるんじゃないか?」
ハヤテがそう言って笑う。
「ははは・・・。」
ギルティアが苦笑する。
「こ、こら、耳を引っ張るな!!」
スナミが、ハヤテの耳を引っ張る。
「どうやら、退屈しなさそうですね・・・。」
ギルティアは、事の成り行きを見守りながら、静かに笑った・・・。

続く
プロフィール

白翼冥竜

Author:白翼冥竜
辺境ロボットサークルのリーダーにして、
勇者ロボットをこよなく愛する男。

「地平の旅人」第一期、完結。
気になる方は、ピクシブ、もしくはエブリスタで検索を。

ネタやキャラについて語りたくてしょうがないが、本編を書き進めなければ語れぬこのしんどさたるや。
地道に農作業をしつつ、現在「地平の旅人ZWEI」をピクシブにて連載中。

カレンダー
09 | 2017/10 | 11
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 31 - - - -
カテゴリ
月別アーカイブ
10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08 
シチュー引きずり回し
最新コメント
リンク
QRコード
QRコード
最新記事